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「高橋さん、最近めちゃめちゃ手作り屋さんじゃないっすか」
顔なじみのADから「はよざいまーす」の挨拶とともに声を掛けられ、章太はケータリングスペースに並べるところだった苺のジュレを手に、そちらへ振り向く。
「あ、おはようございます。……て、いうか、手作り屋さん……?」
「撮影外でもいろんなもの作ってんなあって意味す。この前なんか、収録終わってんのにわざわざパンケーキ焼いてたでしょ。生クリームまで泡立てて。あれは本格的すぎでしたよ」
「……ああ、あれは、そうですね……」
収録後の『ちゃんとしたごはん』に加え、『ついでに、食後のデザートも!』をもすっかり定例化させたイケメン俳優様は、前回、なんかどうしても今パンケーキが食べたい、ごてごてに生クリーム盛られたやつ、とカフェ紹介雑誌の一ページを片手にリクエストしてきたのだ。 そういえば、ちょうど収録で使い切れなかったたくさんの果物があったなあ、と、章太がつい手ずからフルーツパンケーキをこしらえてしまったことは事実だった。
(いや、ほんと、あれはやりすぎだったよな……)
そもそも、一ヶ月ほど前、俳優のマネージャーから依頼を受けて用意したおかゆ自体、ちょっと出しゃばりすぎだった、という反省が、章太の中では日を経るごとに色濃くなっている。一から一皿こしらえるのは、ケータリングや番組中に作ったものをよそって並べるのとは、まるで異なる行為だ。
(完っ全に、続木さんのためだけに作る食事だもんな……)
しかも明らかな残りものとはいえ、番組が用意した、番組の食材を使うのだ。厳密に言えば、そんな私的消費は良いことではないだろう。
(一応、毎回ちゃんとスタッフさんに確認はしてるけど……)
「お。これ苺っすか。やっぱこういうのも、続木さんのリクエストな感じです?」
章太の足元にある大きなクーラーバッグを覗きこみ、相手は物珍しそうに訊いてくる。クラッシュアイスを敷き詰めた私物のバットにプラカップ入りのジュレを一つずつ並べていた章太は、空いた片手をふるふると振った。
「あ、や、これは違います。その、うちの──あ、オレ、普段は料理教室の講師なんですけど。そっちの料理教室の方で、ちょっと誤発注やらかしまして……わりと高額な苺が、使う当てもないのに保管室に山積みに」
「うわよく聞くやつだ。てか大変じゃないすか」
「急遽レッスンメニューに苺を使ったスイーツ増やしたりして対策はしたんですけどね。それでもかなり余ったんで、しょうがなく講師陣がそれぞれ買い取ったという……」
へえ~、とADは暢気な声を上げる。彼にとっては、まさに他人事だろう。
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