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「俺はね、高橋章太」  あくまでのんびりとした声音で、続木黒也は告白する。 「スクールカーストって言われ方が嫌いだったんだよね。今でも嫌い。んー、学校出てからで言うと、ヒエラルキーとか。ああいうの」 「……オレもそんなに好きじゃないですけど……たぶん、オレがその言葉をいやだなって思うのとは、理由が違いそうな気がします」  どう見ても、続木黒也はカースト上位の人間だ。イケメン俳優としてもてはやされる現在の活躍ぶりは言うに及ばず、学生時代だってさぞモテたことだろう。  もし彼のように勝ち組になれるのなら、章太はたぶん、その階層構造を嫌いにはならない。いつも良くて真ん中、悪いとちょっと下の方にいた、という悲しい自覚があるからこそ、根強い苦手意識が育ってしまっているだけだった。 「そう? 理由なんてそんなに変わらないと思うよ」 「……」 「絶対に納得しませんって顔してるけど。まあいいや。つまりさ、人生の行き先なんて自分だけのもので、それって個人個人でまったく別の方向にあると思うわけ。例えばいま偶然、俺と高橋章太はおんなじ部屋に居るけど、俺にとってのレッドカーペットと、高橋章太にとってのレッドカーペットって、まるきり意味が違うだろ?」 「レッドカーペット……って、映画のお祭りみたいなやつで歩くあれですか? 両脇ぎっしり報道陣、みたいな」 「うん。俺、いつかあそこ歩きたいんだよね」 「え、すごいですね」  何よりも、数年後にはあっさりと叶っていそうなところがすごい。  何年か後のワイドショーで彼のそんな姿を目にした時、自分が今日のことをどんなふうに思い出すのか、章太にはまるで想像もつかなかった。 「これでも映画けっこうやってるんだけどさ、なかなかああいう場所で評価されそうな作品には縁がないよね。そのへんもっと頑張ってよ、瀬野(せの)さん」  最後の言葉は、彼のマネージャーへと投げ掛けたものだ。長机の向こう側に座すマネージャーは、俳優のそんな軽口には慣れっこなのか、ちら、と目線を上げてみせただけで特に取り合おうとはしなかった。どうやらクールな人らしい。

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