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「お、オレ、はあんまり、映画とか、見なくて……でも、続木さんのお話を聞いてて、前にめっちゃ感動した映画のことを、思い出してて。その、ちゃんとしたタイトルは忘れたんですけど、『ナミコイ』って映画があって……少女漫画原作の」  章太の言葉に、俳優はつと眉を寄せる。思わず「ああああ」と唸りそうになりながら、章太は必死で先を続けた。 「年下の、従妹と見に行ったんです。中学生の! 当時、オレは大学卒業したばっかの春休みで、従妹が、親とも友達とも予定が合わないけどどうしても見たい、連れて行けってねだるから、連れてって。正直、チケットだけ買い与えてオレは外で待ってようかと思ったくらい、なんていうか、雰囲気がアウェイだったんですけど、でもそれじゃかわいそうだし、一緒に入って。……二時間見終わって、出てきた時には、オレの頭の中はタカトのことでいっぱいになってました」 「!」 「ナミコイは、タカトともう一人のイケメンとが、主人公の女の子……アヤカだったと思うんですけど、その子を取り合う、みたいな話で、でも結局、タカトは選ばれないって言うか、フラレるんです。ただ、タカトはアヤカとは幼馴染みで、恋心は小学生の頃から抱えてたから、想いが深くて。その上、もう一人のイケメンとは親友同士だったりもして……タカトほんと、いま思い返してもめちゃくちゃ切ないんですよ。で、映画の終盤、夏合宿か何かで、ついにタカトはアヤカに告白するんですけど……その時の、俳優さんの演技が、ほんとただ、ただ良くて」  満天の、降りそそぐような星空の下。  想いの丈をぽつぽつと語るタカトの独白が、延々と続くシーンだ。  派手なことは、何もない。泣けとばかりに主題歌がかかっていたりもしなかった。スクリーンの中のタカトは静かな表情をして、けれどとびきり優しい眼差しでアヤカを見つめながら、溢れた気持ちをそのまま、飾らずに告げてゆく。ずっとずっと素直になれなかった彼が、やっと、まっすぐにアヤカと向き合う。その横顔には安堵さえ見えた。そして、どうしても切なかった。  だって、もう遅い。 (アヤカは、タカトを選ばない)  それを、観客はもう予感していたのだ。  だからこそ、隣席の従妹はしゃくりあげるくらいに大泣きしていたし、この映画に感情移入するつもりのなかった章太も、じんわりと涙ぐんでしまっていた。 「この想いは、無敵だ。……って、タカトが言うんです。負け戦なのに、負けないって。それをあの俳優さんの演技で聞いた時、なんか、ああ、ほんとにおまえの勝ちだよ、みたいに思って……変な話ですけど、でも、実際にオレは完敗してた。タカトがアヤカへ向ける想いくらいの、ひたむきでまっすぐで強い気持ちを、オレは持ってなかったから。たぶん、あえて持たないようにしてたから……オレの人生、こんなんでいいのか、くらいまで思って」  そのちょうど一年後に、章太は会社へ辞表を出したのだ。……無難なものだけを選択してきた人生への違和感を教えてくれたのが、タカトだった。

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