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「続木さんのお話で、ほんとに、その時の気持ちを思い出しました。だから、大丈夫です」
「……」
「続木さん?」
「お、あ、うん。なら、良かった」
明らかな作り笑顔を見せながら、俳優は何度も頷く。そのようすは、やや気圧されているふうにも見えた。
(か、語り過ぎ……!)
やってしまった。これだからコミュ障はいやなんだ、と自己嫌悪に陥ろうとする自分自身を即座に叱咤し(落ちこむのは後でいい)、章太はなんとか愛想笑いを作ると、ともかく退室のために頭を下げた。
「そんなわけなので、ほんとに、お二方ともありがとうございました……!」
「あー、高橋章太。あのさあ」
それでは失礼します、とそそくさ扉に向かう章太の背へ向けて、俳優がどこか気まずさを押し出すように声を掛けてくる。
まさか無視するわけにもいかず、章太は片手でドアノブを押し下げたまま、半身を返した。
「今でもたぶん、ネットで検索したら普通に出てくると思うよ。『波間の恋のように』」
「え……」
ナミコイの正式タイトルを言われたのだ、と章太が気付いたのは、帰りの電車の中、実際に検索しようとスマホの画面を見つめた時だった。
バツのわるそうな続木黒也の声音が、脳裏にくっきりと蘇る。
「映画の公式サイト。それ見たらさ、俺が同棲相手にフラレた話、ぜんぶ忘れてくれる?」
『波間の恋のように』。
章太にとっては、タカトの告白シーンの星空があまりにも印象深い。けれど、作品はむしろ海の話だった。
アヤカたちは海辺の街に住む高校生で、その背景にも、甘酸っぱい恋を彩る数々のエピソードにも、海は欠かせない。
きらめく夏の海が写し出された、公式サイトのトップページ。その鮮やかな青を背景にして、漫画的なデザインの制服を纏った三人の人物が佇んでいる。それぞれの視線を意味深に交錯させているあたりが、いかにも三角関係物といった雰囲気だった。
中学まではどちらかと言えば女っ気もなく地味なタイプだったのに、アヤカのために高校デビューを果たしたタカトは、ひときわ人目を惹く金髪姿だ。
その顔立ちは、今にして見れば、明らかに続木黒也だった。
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