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会話の合間、金森は「画の繋がりは後で考える。とりあえずスタジオ押さえろ」と指示を出す。章太は腹に力をこめて、「あのっ」と声を挟んだ。
思うよりもそれが大きく響いてしまい、全員の注目を集めてしまう。
「……あの、」
上擦りそうになる声をひっしに落ち着けて、章太は金森を見た。
「スタジオなんですが、良ければ……岡山の、スウィートホームクッキングのスタジオがたぶん、空いてます」
「……岡山先生の?」
「はい。一般的なキッチンスタジオとしてちゃんと機能しますし、岡山も自身の番組をそこで撮影してますが、それは週に一回の収録なので、撮影日についても融通は効くかと思います……」
「めちゃくちゃ金掛けたって噂のマイスタジオだよな……。池内 、高橋先生から詳細を伺って検討しろ。使えそうなら押さえさせてもらえ」
「はいー! では高橋先生、スタジオについて詳細を話せますー?」
出来れば設備のあれやこれや、と質問されるが、さすがにそこまで詳しくはわからない。章太は大人しく教室の事務室に電話を入れ、もろもろの説明やスケジュール取りを代わってもらうことにする。
『承知しました。ではすぐにこちらから電話を折り返させていただく旨、池内さんにお伝えください。……あ、高橋先生!』
「え、はい?」
『このお話、岡山さんに忘れずに通しておいてくださいね』
「……」
それは暗に、「お気に入りのマイスタジオ」を人に貸すことへの愚痴やら何やらを引き受けろよ、ということだろうか。
章太は思わずじっ…と自身のスマホを見つめてしまう。
(や、でも、続木さんだし……)
案外、岡山は喜ぶかもしれない。そう思いながら、電話帳からクマさんへコールした。さすがに、岡山へ直接繋がる番号は知らない。
二コールで通話に出てくれたクマさんは、岡山とともに某テレビ局内の廊下を移動中だと言う。章太は恐縮しながら岡山に代わってもらい、一通りの事情を話した。
『うちのスタジオを? 続木くんに? それって、榎本 さんの番組よね……、って、やーだあ!』
「!?」
唐突に語尾が弾けたと思うと、岡山の声はなにやらきゃあきゃあとはしゃぎながら遠くなる。誰か、知り合いにでも遭遇したんだろうか。
『ごめん、高橋君』
「クマさん……あの、一体……」
『いま、廊下の向こうからね、ちょうどその榎本プロデューサーが歩いてきたんだよ。あちらも電話中みたいだけど……』
朗らかに苦笑するクマさんからそう言われて、章太は思わず金森ディレクターの姿を探す。彼もスマホを片耳に当てたまま、同じように得も言われぬ表情で章太を見ていた。……これは。
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