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『なんだか二人でとても盛り上がってるみたいだから、事態は一気に変わるかも。……本当に、お(その)ちゃんの引きは相変わらずすごいよね』 『高橋くーん! 今日の撮影、うちでやることになったわよー!』  クマさんの言葉じりを奪うような勢いで、岡山が電話口に出てくる。突然、ボリュームを十も二十も上げられたようなものだ。章太は目を白黒させた。 「せ、先生……あの」 『いまそこで榎本さんに行き会って、あんまりにも奇遇だからこれは運命ねって思ったの。あたし、今朝は豊洲に行ってたでしょ? そこでね、いつもたくさん仕入れてくれてるお礼にって、馴染みのお魚屋さんからアンコウを頂いてたのね。これがねえ大きくて、すっごく美味しそうなの! もちろんとっても新鮮だし。でも当分アンコウの予定なんてないし、教室のみんなで鍋パでもする? なんてクマくんと冗談で話してたんだけど、いまほんとに偶然、榎本さんに会ったじゃない? しかも、榎本さんたら自分の番組に食材用意し損ねて困ってたんでしょう? もう、こんっなに良い機会に恵まれたんだから、このアンコウはまるごと榎本さんの番組にあげますよーってお話をしたのね。そうしたら、苑ちゃんもし暇ならゲストで出てみる? って話になって──』 「え、……先生、出るんですか?」 『そうね、そうなっちゃった』  あっけらかんと岡山は笑う。 『だからね、高橋君。あなたはちゃんと教室に帰ってくるのよ』 「──」 『あたしも、この後に出るお昼の番組が終わったら、まっすぐ戻るわ。そしたら、いっしょにアンコウまるごと使い切りメニューを考えましょう』 「……はい……」  答えた声音は、なんだかぽかんとした響きになる。あまりに事態が急変しすぎて、理解が追いつかなかった。 「あれっ、続木さん!?」  ふいに、スタッフの誰かが驚きの声を上げた。見れば、開け放されたままのスタジオの入り口に、確かにその長身がある。 「えっ……と瀬野さん、こちらから連絡、行ってますよね?」 「ええ、頂いています」  俳優の後について現れたマネージャーへ、スタッフの一人がおそるおそる確認の声を掛けていた。瀬野マネージャーは端的に答える。 「ですが、本人がどうしても現場で直接話をしたい、と言うので」

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