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ただ一人、快晴の青空の下にいるみたいな黒也だけが、明るい声音を放った。
「夜か。十九時くらいですか? それはさすがに無理かな。でも、二十一時……悪くて二十二時まで待ってもらえれば、俺は必ず戻ってきます」
「黒也。私はそんな強行は認めない」
黒也が何を言い出すのかはわかっていたんだろう、瀬野の否定は早い。そして黒也の方も、瀬野がそんなふうに即時却下してくることは予測していたらしい。一つも堪えたようすのない、けろりとした顔で反論する。
「瀬野さんが何を言っても、俺は戻ってくるよ。どうせ俺の夜ロケはないんだし、宿に着いてちょっとわちゃわちゃしたの撮ったら、今日の分は終わり。それからすぐ出発させてもらえれば、那須高原からならそんなに遠くない」
「夜ロケがないのは、翌朝のロケがあるからだ」
瀬野の眉間の皺は、いっそう深くなった。
「那須高原から戻って、一本番組を撮って、次は朝ロケに間に合うようにまた那須高原へ向かうのか? おまえ、徹夜で運転なんかして、事故でも起こしたらどうする気だ」
「大げさだなあ。仮眠くらいは取れるよ」
「そういう問題じゃない。……どうして私が同行できない時にかぎって、無茶をしようとするんだ」
「それは社長に言ってよ。今回、台湾支社の視察に絶対瀬野さん連れてくって言い出したの、あの人でしょ」
「……くそっ。だから俺は現場を離れたくねえっつったんだろうが!」
「あーあー瀬野さん、素が出ちゃってる」
「黙れ」
眼鏡越しの鋭い眼光でぎろりと担当俳優を睨みつけたマネージャーは、スーツの内ポケットからスマートフォンを取り出すと、いっそ潔い捨て台詞を吐いてみせた。
「おまえなんかもう好きにしろ。……そっちがその気なら、なんとしても運転出来るマネを確保してやる」
「瀬野さん無理したら駄目だよ。めぼしい人はみんな社長が視察に連れてっちゃうでしょ」
「うるさい。黙れ。このアホナス」
「うーん瀬野さん、いつになく本気だなあ」
仕方なさそうに笑った後、黒也はくるりと身を返す。呆気にとられている金森へと、爽やかな笑顔を向けた。
「というわけで、金森さん。無事にマネージャーの了承も取れたんで、俺の入りはひとまず二十一時予定でお願いします」
「り、了承……?」
「もしそれより遅れそうなら、その都度連絡は入れさせてもらいますね」
「ああ、いや……そうだな。続木君が今夜中に入れるなら、こっちは願ってもないことだ。有難く、そのつもりで準備させてもらうよ」
金森ディレクターが頷くのを見て、黒也は満足したように笑むと、「よろしくお願いします」と折り目正しく頭を下げた。
そこでようやく、今日のスケジュールは確定したのだ。
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