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「吉田さん、お手隙ですか?」 「えっ……あ、はい!」  所在なさげに収録のようすを見つめる吉田マネージャーの背へ、章太は声を掛けた。彼女は弾かれたように振り返り、ややこちらの姿を探してから、章太の立つサブキッチンまでとととっと駆け寄ってきた。 「はいっ、なにかご用でしょうかっ」 「初めましてですよね。ここの講師の高橋です。用……と言うか、さっき、夜ごはんに炊き出しがあったんですけど……、あ、豚汁は食べられますか? 豚が嫌いとか」 「平気です! 大好物です! うわあ美味しそう……!」 「もしあれなら、白いごはんも付けられます。遠慮なく言ってください」  温め直した寸胴の蓋を開けると、出汁とお味噌の香りが濃く立ち上がる。吉田マネージャーは「ごはんもください!」と良い返事だ。章太は内心微笑ましさを覚えながら、給仕のお兄さんとして彼女に食事を用意する。 「はい、どうぞ。と言っても、僕が作ったものではないですが」 「いいえ、そんな。いただきます!」 「ゆっくり召し上がってください。……続木さんを連れての長距離の移動、本当にお疲れさまでした」 「う……!」 「えっ?」  口いっぱいに白米を頬張った吉田マネは、そのままうるりと瞳を潤ませてしまう。章太はぎょっとして、彼女を凝視した。まさか、喉に詰まらせたとかじゃないよな? 「お心遣い痛み入りますぅ~っうっうっ、あ、あたしが泣いてちゃダメなんですけど……! 豚汁美味しい……ううっ」 「え、えと、ゆっくり、ゆっくり食べてください……」 「はい……。あったかいごはん、すごく嬉しいです。高橋さんは、とても優しい方ですね……」  そんなことないですよ、と章太が返した言葉に被さって、スタジオ内にわっと大きな拍手が起こる。今回の特別編についての説明や使用する食材、おおまかなメニューなどを伝える冒頭のトークパートが終わったのだろう。  次からは、いよいよ調理パートだ。  章太は吉田マネの手元にお茶を差し出しながら、「それじゃ、僕は収録の手伝いの方に戻りますので」と声を掛けた。さすがに今日の撮影で続木黒也の吹き替えをする必要はないが、代わりに岡山のアシスタントとして、画面外での細々とした仕事が任されている。 「僕と入れ替わりでうちの講師がこちらへ来ますので、もしおかわりがあればその方へ頼んでください。この豚汁は吉田さんで最後ですし、ぜひ鍋もおひつも空にしてもらえたら助かります」 「あっ……は、はいっ。ありがとうございます! あの、撮影頑張ってください……!」  カメラが止まった途端に人の声や機材の移動音などで溢れる、撮影スタジオ特有の雑多な空気には慣れていないんだろう。吉田マネはえらくしゃちほこばったようすで激励をくれた。誰かが怒号混じりの号令を飛ばすたび、びくっと震えてそちらを振り返るのも、そういえば三ヶ月前の自分がよくしていたことだ。  みんな最初はおんなじなんだな、と思えて、章太は息を抜くように苦笑する。 「ありがとうございます。頑張ります。オレはまあ、裏方ですけど」

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