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・週刊誌に撮られた話 -03

(え、あれ?) (こんな大病院を経営する一族と親戚ってことは、続木さんって) 「すげえ気が重いけど、これが世に出るんなら親父に連絡しないとだなー……」 「先方の怒りに火を注がずに済む文言くらいは考えてさしあげますよ」 「こういう時の瀬野さん、まじ頼りになる……」  感謝の意を述べつつも、そうとう億劫なのは確かなようで、黒也はべしゃりと机上に潰れてしまった。そんな相手に、これ以上家族の話を振るのはちょっと難しい。それに、ひとつ気になることがあった。  章太は一人、週刊誌の写真をじっと見つめてみる。 「あの……、オレとその従弟さんって、そんなに似てるんですか?」 「ん? うーん……」  小学生の頃しか知らない、と話したとおり、黒也にも判断は付けられないらしい。代わりに、瀬野マネージャーが冷静な返答をくれる。 「この写真では、高橋さんの顔立ちはほぼわかりません。そもそも「映っていない」と言えるレベルですから、顔が似ているから誤認した、とするにはいささか無理があります。解像度の荒さから見ても、だいぶ望遠レンズを駆使して撮っているようですし、お二人の姿を目撃していたカメラマンでさえ続木の顔くらいしかわからなかった可能性が高いと思われます。とすると、彼らが頼りにしたのは、おおよその背格好から割り出せる年齢、二十歳そこそこの青年、といったあたりの情報と、おそらく芸能関係者ではない、という全体の雰囲気でしょう」 「あ、……なるほど」  瀬野のわかりやすい説明に、章太は腑に落ちた心地を覚える。悲しいかな、童顔で頼りなく見られがちな自分が、年相応のアラサーに見えないことは自覚済みだ。 「続木の身の回りにいる年下の青年で、かつ芸能関係者──俳優仲間や事務所の後輩ですね。それらを除くと、むしろ血縁者くらいしか該当する人間がいなかった、と考えるのが妥当です。実際の続木と「小山内氏」に交流があるかどうかはともかく、少なくともいとこ同士であれば、記事のように『お祝いディナー』へ出掛けていてもさほど不自然ではない、と、この雑誌の記者たちは考えたのでしょう」 「こんなこと言っていいのかわからないですけど、その、だいぶ適当ですね……」 「でも、トラのこと探し出すまでにけっこう時間掛けてるんじゃない?」  どうやら気を持ち直したらしい黒也が、改めて二人の写真に触れながら言う。 「だってこれさ、三月の写真じゃん。俺らもコート着てるし」 「あ」  そう言われれば、そうだ。 「ですよね。これ、ホワイトデーの時の……」  ホワイトデー、どうする? と黒也からメッセージが来た時のことを、章太は鮮明に覚えている。びっくりしたからだ。  付き合い始めて最初のホワイトデー。タイミング的に、バレンタインには何もなかった。その何もなかったバレンタインの「お返しの日」。どういうことだろう? と戸惑いながら返信すると、黒也からは二択の質問が返ってきた。  いわく、「章太が俺にスイーツ作って、俺とレストランに行くか、俺が章太にスイーツ贈って、章太が豪華ディナーを用意するか」。  何度かメッセージを往復させて、要するに、章太からは手作りのスイーツかごはんを、黒也からはパティシエのスイーツか有名レストランのディナーを、それぞれ贈り合おう、という主旨であることがわかった。 (で、オレがレストラン行ってみたかったから……)  候補に出された星付きレストランはあまりに魅力的すぎた。章太は二択のうち前者を選択して、当日はレストランディナーをし、その後、黒也の部屋でお手製のホワイトチョコケーキをふるまったのだ。

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