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・週刊誌に撮られた話 -04

「うん。ホワイトデーの時のデート。ってことはさ、記事を出すまでに三ヶ月掛けてるんだよな」 「この春は芸能人の不祥事が続いてましたし、それらが下火になるまで、この程度のゴシップに割くページはなかったのかもしれませんね」  あくまで辛辣に、瀬野が言う。黒也は不服そうにぶすったれた。 「この程度のゴシップぅ? 瀬野さん、担当俳優に向かってそういうこと言う?」 「人違いで従弟の情報が流出したくらいのこと、わざわざゴシップと呼ぶのも憚られます。街中のほのぼのニュースと大差ありません。事実、記事の最後には番組の宣伝まで入っていますよ」 「あ……ほんとだ」  章太は記事の末尾に目を留める。 『レストラン側の話によると、続木は小山内君にかぎらず、親しい身内の祝い事などでちょくちょく店を訪れるのだと言う。周囲の人たちを大切に思う続木の人柄の良さが滲み出るエピソードだが、そればかりでなく、どうやら彼のレストラン通いは仕事にも活かされそうだ。続木自身がシェフとなって料理をふるまう人気番組、『君のための一皿 第二シーズン』は七月より××系列でスタートする』 「レストラン通い、か。こうなるともう、ただの創作だな」 「あのお店に行くの、二年振りくらいかもって言ってましたよね」  心底呆れたように呟く黒也の横顔へ、章太はふんわりと苦笑を向ける。口さがない噂話に興じる人たちが勝手に独自のストーリーを作り上げているのは、どうやらどこでも同じだ。 「そ。二年以上振り。それに、あの店の人間が客の情報べらべら話すわけがないんだよな」 「そんな感じしました。お店も、お店の人たちも、ぜんぶめちゃめちゃ上品だったし……でもどこか、居心地が良くて」 「気に入った?」 「はい」 「じゃあ、また行こ。近いうちに」 「──あなたがたが撮られても、それを『デート』だと報じられる可能性は極めて低い、というのは良い発見ですね」 「!」  ふいに瀬野の声が差し挟まれて、章太は肩を揺らして驚いてしまった。……そういえば、二人きりじゃなかった。 (ま、また忘れてるし……!)  最近になってようやく、黒也の目を見て話すことにも気構えなくなった。むしろ、自分のことを嬉しそうに見つめてくれる黒也の表情が好きだ。──おんなじくらい優しい顔を、自分も彼に向けて出来ていればいいと思うくらいに。  だから自然と、黒也と二人で話す時はお互いの表情にばかり気を取られてしまう。ここのところはほとんど黒也の部屋でしか会うことがなかった分、よけいに第三者の存在はすっぽりと頭から抜け落ちやすいのだった。  章太は遅まきながら表情を整えて、瀬野の方を見る。瀬野はいたってマイペースに、「新しい知見を得た」とでも言いたげな顔をしていた。 「特に高橋さんは非常に目立たない風貌の方ですから、日ごろから芸能人や有名人ばかり追い掛けている雑誌記者からすれば、さほど印象に残らない人物であると言えるかもしれません。それこそ、一度や二度目撃した程度では顔を覚えられることもないでしょう。その都度別人と認識され、今回のように従弟だの何だの、無関係の人間のプロフィールと都合の良い架空のストーリーだけが書き連ねられる……というのは、さすがに楽観視しすぎなのかもしれませんが……」  ふむ、と息を吐き、瀬野マネージャーは額にかかった髪を指で払う。 「よほど決定的な場面を撮られないかぎりは、あなたがたの関係が外に洩れることはない、とは言ってもいい気がします」

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