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・二人の初夜 -04

   てのひらにそっと灯っていた小さな火は、黒也の吐息に煽られて、大きな篝火になってしまったみたいだった。  燃えさかる炎はきっと二人の間にある。それにじりじりと炙られているみたいに、ずっと体が熱い。息も上手く吸えない。  黒也と唇を合わせ、舌を交わす時だけは、ちゃんと呼吸出来ているような気がした。 「章太」  黒也の声は濡れていて、その声で囁かれるたびに、心臓を直接ぎゅっと握られたみたいに心拍数が跳ね上がる。 (……心臓にわるい、って) (こういうことを、言うんだ……)  短いキスを解かれると、支えをなくした頭がこてんとシーツに落ちた。自分がどんな体勢になっているのかよくわからない。裸の胸元が開いているから、きっと仰向けなんだろうなとわかる程度だ。  ぼんやり焦点を結んでゆく視界には、投げ出された自分の片手が見える。そこに、黒也の片手が重なった。 「しょーた」 「……ん、ん」 「指、もう痛くない?」 「うん……」  頷く唇に、またキス。黒也のもう片方の手がどこにあって、何をしているのかは、章太からは見えないけれどわかる。「じゃあ、もう一本増やすよ」と聞こえた後に、ずっと圧迫されているとある箇所へ、さらに負荷が掛かった。  章太が無意識に息を詰めると、とろり、とローションの感触が足される。それを馴染ませてから、黒也の指はさらに奥へと差しこまれた。 「……章太」 「ん……」 「今日ぜんぶすることはないよって俺が言ったら、どうする?」  ぜんぶ。言葉の意味を掴み損ねて、章太は唇の動きだけで問い返す。黒也が答えた。 「セックスのぜんぶ」  章太の真上に覆い被さってきながら、黒也はまっすぐな言葉を吐く。 「章太の体のこと考えたらここまででも充分だし、ここでなら俺も止まれる。これより先に進めたら、章太がむりって言っても、俺が止まれるかわからない。……たぶん、止まれない」 「……止、まれ、ないと……つづき、さんは」  どうなるの。  目を上げたら、ちゃんと黒也の顔が見えた。章太はじっと、それを見つめる。たぶん、黒也はこれまでに一度も見たことのない顔をしている。 「──正直、俺はもう、章太の泣き顔が見たいよ。章太がやめてって言っても、むりやり揺さぶって泣かせたい」 「うん……」  それは、こわいこと、なのかな。  燃え立つ熱の中に思考力も判断力も溶けてしまっていて、あんまりそれを上手く想像出来ない。章太は息を吐いて、一度、目を閉じた。  なにも見えなくなると、自分の体の内側にある、黒也の指の存在を強く感じる。……章太がそうすることを予期していたみたいに、黒也はすべて揃えたその指を、ゆるりと動かした。 「ん、ぁっ……」  びくりと体が跳ねて、声が出る。 「しょーた」 「ぁ、ぁ、ん……んっ」  同じ動きを連続して加えられて、腰が浮いた。自分のその場所が、きゅうっと内部の異物を食んでいるのがわかる。これ、なに。 (え、え)  戸惑いのまま、章太はこめかみをシーツに擦り付けた。片手を引き寄せて、口元に押し当てる。……泣かせたい、と黒也は言った。その意味が、たぶんわかった。泣きそうだ。

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