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室内にはピアノのソロ曲が流れていた。
だが、それが誰の何という曲かを彼は知らなかった。クラシックかどうかさえわからない。興味があるわけでもなかったし、気に入っているとは思っていなかったが、少なくともいらいらはしない。
他の曲をかけられたときは一時間ほどで飽きてしまい、代えてくれと頼むことさえせずに、彼はいきなりオーディオの電源コードを引っこ抜いた。
今かかっている曲は、彼がそれをかけても嫌がらないので、毎日かけられている。
その曲の流れる室内で、皮のソファにぐったりと身を任せている彼は、生気はなかった。
彼には自由がなかった。
とりあえず自由に移動ができるのは、このマンション内だけだ。それでも、彼は二十四時間、常に監視されていた。
彼が逃げ出したりしないように。そしておそらく自殺したりしないように。
このマンション内の玄関脇の一室が彼の世話係を兼ねた監視者のための部屋だ。そこには常に彼の姿がモニタリングされている。彼が入浴しているときも、トイレにいるときも、常に、だ。それが中断されるのは、監視者の主人が訪れているときだけだった。
それは、彼をここに監禁している張本人であり、かつて彼を拉致し、彼の体に二度と消すことのできない傷を負わせた首謀者でもある。
思い出すたびに、屈辱と怒りに震えが起きる。
あの時は、痛む体で逃げ出した。そして名を変え、あちこちを点々と移りながら、捜索の手から逃げ続けた。しかし約三年の後に、ついに再び捕らえられ、ここに監禁された。
抵抗して暴れまわり、自らを傷つけようとした最初の三日間は両手を、時には両足首をも拘束された。
監禁される者の最後の抵抗手段である食事の拒否も、定期的に彼の健康状態をチェックしに来る医師が施す点滴などで意味のないものにされた。
飼われている。
そう思った。
何一つ自分で決めることは許されない。
ただ、毎日ソファに座っているだけだ。
ただ座って夜に怯えている。
あの男が来るかもしれない夜を恐れている。
男が来たら、彼は凌辱される。凌辱されるために、彼はここに飼われている。
男が誰なのかも知らず、理由もわからぬまま、彼はここで虜囚として生きているのだ。
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