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じゃきりと衿の項あたりにハサミが入れられた音がした。更にじゃきりと容赦なくシャツの背の中心が裂かれていく。
冷えた空気が背を撫でる。
男はシャワーヘッドを掴み、浴槽に向けた。遥の目の前でコックが捻られ、浴槽にシャワーが放たれる。やがて湯気が湧いてきた。
シャワーヘッドの向きが変えられ、遥から見えなくなった。
熱い湯が両側から腕を掴まれた遥の体に降り注いだ。もがいたが、湯は容赦なく体を温めていく。
遥の背に隠された真実が、三年ぶりに人前にさらされた。
男がほうっと息をついたのが聞こえた。
「間違いない」
満足そうに男が言った。
「お連れしろ」
湯が止まった。
腕の拘束が緩み、遥はその場に崩れ落ちた。
濡れた服をはぎ取られる。破られたシャツもジーンズも下着も、すべて。
もう抗う気力もない。
全裸にされた遥の体は、バスタオル数枚で丁寧に体を拭かれ、同時に手首と足首を拘束された。猿ぐつわを噛まされる。
「やめろよ」
弱々しい水木の声がした。
「仕方ないのですよ。この方は三年前私どもの主 の管理下から逃走なさったのです。同じことを繰り返されては困りますので、慎重にならざるを得ません。あしからずご了承ください。高遠さんもよろしいですよね」
のぞき込む男から顔を背ける。
男が笑ったようだった。
遥は新しいバスタオルに包まれ、男に抱き上げられた。
水木の顔は見られなかった。どんな目で見られているか恐ろしくて、到底見ることはできなかった。
「アキラ……」
名を呼ばれた。
ごめん――
猿ぐつわを噛まされた遥には心の中でそうつぶやくのが精一杯だった。
玄関の外に水木の彼女が立ちすくんでいた。
「え? あ、あの……、アキラくん?」
遥はきつく目をつぶった。
ごめん。楽しい一日を台無しにして――
彼女の視線を感じながら、心の中で詫びた。
押し込まれたワゴン車の後部座席にもまだ一人男がいた。
誰かの手により目隠しをされた。
「大人しくなさってください」
バスタオルが広げられ、腕を掴まれた。肘の内側を消毒綿らしいものでこすられ、ちくりと痛みが起きる。
徐々に遥の意識は薄れていった。
(水木の顔を見ておけばよかった)
今頃そんな後悔を覚えた。
この半年、水木とは友だちとしてつき合えた。その顔を最後に見ておけばよかった。
たとえそれが責めるような眼差しだったとしても、忘れてしまうよりはその顔を覚えておく方がよかった。遥がまだ自由だった時の最後の記憶として。
遥は自分の目が涙に熱くなるのを感じながら、完全に意識を失った。
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