15 / 66
(15)
激しい音を立てて、ドアが開け放たれた。
立っていたのは、三年前老人と話をしていたスーツの男だ。幾分やつれたような感はあるが、間違いない。
男の顔は怒りに満ちていた。
男はベッドに上がると、自らの顔をひっかいた遥の手を頭上に挙げさせて押さえつけた。
遥は男に平手打ちを浴びせられた。
「自傷行為など許さない」
しかし、遥はそれどころではなかった。
他人の手が、体が遥に触れた。その瞬間、一瞬だけ忘れていた苦しい欲望のうねりが、体の中を一気に貫いたのだ。
『ひぃぃぃぃぃっ』
のけぞり、喉の奥で悲鳴を上げ続ける。激しく頭を振り、身をのたうたせて体の中の衝動に反応してしまう、前が後ろが。
男の体が離れた。
無意識にそれを追っている。自分ではどうしようもないこの体は、他人の手しかいやしてくれない。
すぐに鎖が遥を阻んだ。
『くうぅ……』
手錠が食い込む痛みに、意識を向ける。しかしそんなもので体中を焼き尽くす欲望はごまかせるはずもない。
男が言った。
「これは罰だ。私の元から逃げ出したことに対する」
遥は目を開けた。
男がじっと遥を見下ろしていた。男を見返す遥は、とてもじっとしてはいられない。全身が震え、視界さえふるふると揺れている。
「いきたいか? 抜いて、はずしてほしいか?」
男の問いかけに遥はうなずいていた。
男がベッドに膝をついた。その動作で起きた揺れに、遥は呻く。
その遥の顎を男の手がつかんだ。遥は男を見る。
「それならば誓え、もう絶対に逃げ出さないと。誓うか、遥?」
屈辱だった。憎んでいる。それなのに、肉欲の強烈さの前に跪かされる。
涙をこぼしながら、遥はうなずいた。
今の遥ならどんな要求にも従っただろう。
男が歪んだ微笑みを見せた。
しかし、何も言わずに遥の股間に手を伸ばした。
男の手が触れただけで、遥の体が跳ね上がった。そしてまた体内をせめられた。
「こんなに硬くして」
男の指がなで上げる。
『あああっ』
遥は悲鳴を上げた。
気が狂う。これ以上もてあそばれたら、もう戻れなくなる。
突然楽になった。締め付ける物がなくなったその瞬間、遥は絶頂を迎えた。
やっと射精できた遥のそれを男が自分の手の中に包む。
それだけで遥はまた追いつめられ始めた。
目がくらむような快感に何度もさらわれる。
それなのに、満足できない。
体の中の熱は獰猛に遥を追い立ててゆく。
「どうした、遥」
やさしげな声と笑顔で男が訊ねる。
「まだ、足りないのか。淫乱なんだな」
侮辱の言葉に、遥は目をつぶる。
「もっと素直になったらどうだ。自分がどうされたいか、よく考えてみては?」
男の手が、遥の体を這う。ぞくぞくする。
それが、気持ちいい。
信じがたいことだが、遥は男の手に触られることで、より体が熱くなるのを感じた。
「本当は、欲しいんじゃないのか? 何かが、ここに」
両脚の間に差し込まれた男の手が遥の股間を撫でながら、奥へ忍び込む。
期待に震えた。
熱くとろけるようなそこには、何がいれられているのかわからなかった。動くと恐ろしい快楽を与えてくれるが、遥の体はそれ以上のものを知っている。もっと大きく奥まで入り込むものを。そして、今、その刺激を欲しがっている。
しかし、男の指はそこには触れない。そのわずかにずれた場所を指の腹で撫でている。
もどかしい。切ない。欲しい。入れて欲しい
いれられて。抉られて。何度も突き上げられて――
めちゃくちゃにされたら、きっと楽になる。もっと気持ちよくなる。
遥は卑猥な想像に喘いだ。
惨めで泣きたい。でも、泣きたくない。
男に犯されたいなんて。性器を突っ込まれて、こすられ、抉られたいなんて。
なんて汚らわしい。おぞましい。
でも、この体がそれを望んでいる。
遥は身を震わせながら、涙が勝手にこぼれた。
突然、入れられていたものを引き抜かれた。
のけぞって悲鳴を上げた。
「本当に欲しかったものは、前立腺刺激 ではあるまい?」
引き抜かれた場所が刺激の余韻がくすぶり、冷たい空気を火照った穴で感じている。
「もっと奥まで挿れて欲しいんだろう、ここに」
指が突き立てられた。
遥はその刺激に再びのけぞった。
『ああっ』
噛んでいた猿ぐつわのすき間から声が漏れた。
快感に貫かれた。治まりかけたしびれに似た余韻が、再び頭の頂点から爪先まで広がっていく。
もっとほしい。もっと。いっぱいにされて、前を扱かれたら。すごくいい気持ちになる――
遥は、この体は快楽を知っている。
この男に、そうされたことがあるから。
三年前、目隠しをされていた遥を犯したのは、この男だ。
「私が欲しいか。ここに挿れてかき回して欲しいか?」
うなずくのをためらった。
男の指が遥の入り口部分を大きく抉った。
痛みに遥はすくみ上がる。
「欲しいんだろう、遥。私のペニスでこうやってもらいたいんだろう?」
指が遥の中をこね回し、押し上げた。
『ああああっ』
気が遠くなるほどの快感だった。
遥は思わずうなずいていた。
体の望むとおりに、脚を開き男を受け入れた。
あの液を使われ、前と後ろを同時に責められて悦びの声を上げ続けた。挿れたまま何度も上り詰めた。
極限まで追いつめられたセックスは遥の頭の中をめちゃめちゃにした。何一つ理性的なことは考えられなかった。
最後は意識を失い、いつ終わったのかさえわからなかった。
『ようもちこたえるの、人の子』
金色の輝く男の夢を見た。まぶしくて顔はうかがえないが、その声は聞いたことがあるような気がした。
『そなたが七・七・七の年にあれらを捨てると決めてしまえば、さぞかし面白い物が見られたであろうが、人の子は執着 が強いからの。まあ、せいぜいあがけ。そしてもっと糸をぎりぎりと鳴るほどに絡めるとよい。見物じゃ、見物じゃ』
ふぁさっと大きな翼が開くと男の姿はかき消え、金色の大きな鳥が飛び立ち、闇の中へ消えていくのを遥は呆然と見上げていた。
ともだちにシェアしよう!