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 目が開いたとき、遥は自分の状況がわからなかった。夢を見たような気もするがはっきりとはしない。  どこにいるのか、何をされたのか。――したのか。  体が信じられないくらい重かった。  節々が痛い。  体の奥が熱を帯びて、痛む。  やっとすべてを思い出した。  捕まって、連れ戻されたのだった。  そして、催淫効果のある液体をまた使われ、無理矢理に引き出された欲望の前に体を投げ出した。  震えだしていた。  自分のしてしまったことが恐ろしい。  薬物を使われたとはいえ、狂ったように男に貫かれたがった。  絶望に両手で顔を覆う。  はっとした。  拘束されていない。  体にはパジャマを着せ付けられている。  その時、ドアが開いた。 「おはようございます」  入ってきたのは、遥をここに連れてきた男だった。  クローゼットを開けて着るものを取り出し、遥の寝ているベッドの上に並べていく。  どれも遥のものではない。もっと上質で、ずっと高価そうだ。  手に入れた人形に、お気に入りの服を着せようってわけだ。  そんな風に解釈した。 「起きあがれますか?」  のぞき込まれて仕方なくのろのろと身を起こす。  ここへは裸で連れてこられた。この服を着る以外に遥には選択肢がない。  激しいセックスでへとへとの体に何とか服を着込んだ。  下着や靴下の他に、淡い淡いグリーンのシンプルなシャツ、ペパーミントグリーンの綿のカーディガン、ジーンズ。  クローゼットの扉の内側に取り付けられた鏡を向けられた。  その色合いは、遥の白い肌に映えた。腹立たしいことに。  かすかに男が微笑んだ。 「よくお似合いです」 (俺にではなく、自分の見立てに満足しているのだろう?)  皮肉ってやりたかった。 「社長がお待ちです」  その言葉に遥はすくみ上がった。それはきっとあの男のことだ。 「こちらへ」  促されても、歩き出せなかった。 「手をお貸しいたしましょう」  腕を抱え込まれ、無理矢理に寝室の外へ引きずり出された。  男がある部屋の前に止まった。ドアはわずかに開いている。そのドアを男はノックした。 「遥様をご案内いたしました」 「入れ」  あの男の声だった。  男がドアを大きく開き、遥の体を中へ押し込んだ。ふらついた遥の背後で、ドアはすぐに閉ざされる。  遥はうつむいたまま、顔を上げられずにいた。  壁に掛けられた大きなビジョンに何かが映されているらしく、それが視界の隅でちらちらする。 「ここへ来なさい」  遥は唇を噛みしめる。 「もう一度言う。ここへ来なさい」  それでも、遥は動かなかった。  男がため息をついたのが聞こえた。その次の瞬間、遥の耳に甘くかすんだ悲鳴が飛び込んできた。  はっとして顔を上げ、遥は息を飲んだ。  ビジョンに映されているのは、もつれ合う二つの肉体だ。どちらも男だが、その体は接合している。肛門を男の性器に貫かれて、快感にとろけるような表情で声をあげているのは、遥自身だった。  遥はカーペットの上に崩れた。  男が立ちあがり、遥を振り返った。 「そう。これは昨夜のお前だ」  ソファの前から、遥の元へゆっくりと近づいてくる。 「いい声だ。猿ぐつわをはずして正解だった。顔もよく撮れている。実物の方がずっといいが、これでも十分楽しめる」  男が遥の前に片膝を付き、遥の顎を上向けた。 「次に逃げたら、これを使って探す。これではお前が薬を使われていることはわからない。こんなふうに拘束されて犯されるのが好きな変態だと思われるだけだ。これをお前をかくまっている人間、知らずにともに暮らしている人間が目にしたら、どう思うかな。人によっては嫌悪するだろうが、中にはお前とセックスしたいと思う者も現れるだろう。こんなにうれしそうにやられているのだからな。こんなことが好きなのだと間違いなく思われるだろう」  遥はめまいを覚えた。 「無論、お前が大人しくしていれば、そんな目には遭わずにすむ。わかるな?」  男が遥の顎から手を放した。  遥は支えを失って、視線をカーペットに落とした。 「今日はこれで帰る。いずれお前の披露目もしなくてはならない。そのつもりで覚悟しておけ」  遥の横をすり抜けて、男は部屋の外へ出て行った。  スピーカーから流れる遥の喘ぎが、遥の耳を焼く。 『気持ちいいか、遥?』 『き、もち、いい……』 『もっとほしいだろう。欲しがっていいんだぞ』 『あ……は』 『言わなければ、終わりにしていいんだな?』 『ああっ、だめ、やめないで、もっと、して……、ほし、い……』 『いい子だ』  また、遥が悲鳴を上げる。しかし、明らかに悦んでいる。快感に溺れている。  遥は、自分の耳を両手でふさいだ。 「いやだ。こんなのうそだ。聞きたくない。嘘だ……」  ふさいでも、遥のよがり声は忍び込んでくる。否定する遥を嘲笑うかのように、男にやられてひいひい泣き叫んでいる。 「いやだ、いやだ、いやだぁぁぁぁー」  現実の遥は悲鳴を上げた。  あの世話係の男が来て、ビデオを止めても悲鳴を上げ続けた。 「遥様、落ち着いてください。こちらを向いてください」  落ち着かせようとする男の手を拒み、抗い、暴れた。  男にうつぶせに押さえ込まれ、何かで両手首を結ばれても全身を家具や壁に叩きつけようとした。  それは男によって呼び出された医師から注射を受けて意識をなくすまで、ずっと続いた。

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