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夜になって強くなった風が窓を激しく揺らしている。
ひとりになると、急に体が震えだした。
自分の二の腕をきつく抱きしめる。
理解のできない力に運ばれて、ここまで来てしまった。
選んでしまった道を後悔はしていない。
しかし、遥を取り巻く人々の思いはまた別だ。
加賀谷には家族がいる。
家族以上のつながりを持つ凰の出現で、家族――特に加賀谷の妻は何を思うだろう。公然と自分の夫とセックスする人間が現れて、どんな気持ちで今を過ごしているのだろう。
桜木たちのことも気にかかる。
彼らは一族外だという。そして、加賀谷以外の一族の者たちに忌み嫌われているようだ。
彼らの親たちがしたという裏切りとはいったいどんなものなのだろうか。また、桜木は加賀谷を「命の恩人」と言ってはいたが、なぜそのようなことになったのだろう。
すべては明日からだ。
今は、そう思うしかなかった。
「疲れた……」
つぶやくと、急に体が重いことを思いだした。
遥は目を閉じる。
また明日……。おやすみ。
誰にあてるでもなく心のなかにそうつぶやいた。
そして、遥は新しく開けた道の第一日目を終わりにした。
――了――
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