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壮真理人の葛藤・2

 つまりは売春の斡旋か。まずは管轄下にあるクラブで様子を見て、それから、何処か人里離れた山奥の別荘で盛大に「本番」を行なうのだろう。 「協力しかねます。俺のクラブで法に触れるようなことはしたくない」 「あのクラブも元は俺の物だろ。社長、『彼』にちょっかい出されたからってむくれんなよ、機嫌直せ」 「煌夜は関係ない。無理なものは無理だと言っているだけです」 「ウチから出たいんだろ、社長」 「………」 「惚れてんだろ、あの彼に。今回の件が終わればその後は好きにすればいい。二人で人生をやり直したいなら、そうすればいいさ。いつ捕まるか分からねえ仕事じゃ、惚れた男を幸せになんてできねえからな」 「……ウチのクラブで違法なモン売ってるって噂、本当だったんですね」 「社長は何も知らなかったってことで、デカい罪にはならねえさ」  面接も何も無く入った会社だ。希望して就職した訳でもない。ただ昔世話になっていた組の事務所に出入りしていた俺を、柳田グループに属していた頭カシラがスカウトしただけだ。  何のリスクも考えず、淡々と売上を渡してくれればそれでいい。内装もイベントも好きなようにしてくれていい。それだけで死ぬまで安定した暮らしができるぞ。  頭の頼みを断れないのもあったが、俺自身、何も迷うことなくその話を承諾した。実際金に困っていたし、ガキだった俺にとってクラブ経営、社長という響きが放つ魅力に逆らえなかったのだ。  始めは楽しかった。未知の世界に陶酔した。揃えた従業員も有能で、VIPフロアのお陰で人脈も増えた。  一昨年の夏に一階のトイレで拘束した男が柳田グループのプッシャーだと知り、グループへの不信感が募った。俺の知らない所で違法薬物の売買が横行していたのだ。  悔しかった。利用されていたと知った時には既に、グループから抜けられないところまで来てしまっていた。惰性で続けるしかないと腹を括った自分にも失望した。一生このグループに管理されながら生きるのかと思えば、人生に何の希望も持てなくなった。半ば死んでいるも同然だった。  煌夜に会うまでは――。  煌夜もまた人生を悲観していた。十四歳にして両親を亡くし、活用方が分からない不思議な力が己の体へ与える影響に悩まされ、頼れる者はなく、行くあてもなかった。  そんな俺達が出会い、惹かれ合わないはずがなかった。温もりに飢えた少年をやさぐれた大人が抱きしめたからといって、誰が俺達を咎められるだろう。  言葉に出さずとも煌夜が俺を好いているのは気付いている。今までは彼に別の道もあると知って欲しくて愚鈍なふりをしていたが、あの夜、悠吾が煌夜の無垢な肌に触れたのを見た時から――もう俺自身、自分の気持ちを抑えることなどできなかった。  俺は煌夜が好きだ。心から惚れている。あの冷めた目も表情に乏しい顔も、突き放すような喋り方も。  はっきりした性格も、不器用な優しさも、食事中の幸せそうな顔も。 「一つ確認しますけど」 「何だ、何でも聞いてくれ」 「オークションで競りにかけられる者達は、皆納得してるんですか」

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