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壮真理人の葛藤・4

 その顔には微笑が浮かんでいたが、俺の言葉を受けた瞬間、悠吾の目の色が若干変わった。 「何だって?」 「落札者には商品の扱いをどう説明しているのか知りたいだけです」 「同じさ。商品には敬意と愛情を持って接すること、危険な真似をするなということをメインに説明する。悪いが契約書はまだ出来てねえんだ。俺の説明じゃ分かりにくいか?」  見せたくない理由があるのだろう。何にせよ悪趣味で反吐が出そうな「余興」だ。 「分かりました。ですが当日、俺も現場に居させて頂きたい」 「社長は関わらなくていい、つまらねえ仕事だぜ。スケベオヤジ共の接待もしなきゃならねえしよ」 「責任者としての義務を果たせないならフロアをお貸しすることはできません」  悠吾が薄笑みを浮かべ、挑戦的な目で俺を見据える。  一分以上の沈黙が続き、やがて悠吾が呆れたように溜息をついた。 「分かったよ、そんなに言うなら社長にも手伝ってもらおうか。詳しい説明は明日、書類で送らせる。今日はこの後の予定が押してるんでな」  立ち上がった悠吾が俺に向かって右手を差し出す。 「社長の男気は伝わった。当日はよろしく頼む」  俺も席を立って悠吾と握手を交わし、真正面からその目をじっと見つめた。何を考えているのか全く分からない、まるで鮫のような不気味で黒い眼だ。  俺にも煌夜と同じ力があれば、少しはこの男の思考に近付くことができるのだろうか。 *  午後七時。 「ど、どうしたんですか理人」 「あ? 何が……」  事務所に戻ると、煌夜が慌てた様子で駆け寄ってきた。 「尋常でないほどの念に覆われてますよ。真っ黒で、正直近寄りたくないくらいです」  道理で今日は顔馴染みの客引きや他店の従業員が誰も絡んで来なかった訳だ。背後に悠吾を背負ったままここまで歩いて来たかと思うとゾッとした。 「何かされたんですか、柳田悠吾に」 「いや、少し話しただけだ。腹減ったから何か食いに行こうぜ」 「その前にシャワー浴びて、ソレを落としてきて下さい」  煌夜に背中を押され、強制的に狭いシャワールームへとぶち込まれる。脱いだスーツを廊下に放ると、煌夜がそれらを指先で摘んで「強制クリーニング行き」と呟いた。 「新しいタオルと下着、置いておきますよ」 「ああ、悪い」  頭から思い切りシャワーを浴び、悠吾の念とやらが流れ落ちて行くのを想像する。排水溝に吸い込まれてゆく水に黒いものが混じっていないかと目を凝らしたが、俺にはただの透明のそれにしか見えなかった。 「煌夜。……煌夜、そこにいるか」 「何か言いました?」  シャワーを止めてから、俺は閉じた扉の向こう側へ静かに問いかけた。 「今夜、最後までお前を抱きてえ。……いいか」

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