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壮真理人の葛藤・6

 運ばれてきた料理を端から頬張ってゆく煌夜。  シーザーサラダ、一口チーズハンバーグ、生ハムとサーモンのカルパッチョ、生雲丹のガーリックトースト、オマール海老のロースト。林檎のタルト、ショコラケーキ。  煌夜は前菜もメインもデザートも順番を気にせず、好きな物を好きな順に食べる癖がある。始めはマナーなど知らない子供だからと思っていたが、違った。煌夜の中で食事という行為は、形に囚われず自由なスタイルでするものなのだ。  箸の使い方も流れるようで、その食べっぷりは見ているだけでこちらも幸せになる。俺が三杯目のビールを飲んで煙草を吸っている間に、煌夜は二人前はあったはずの海鮮ドリアを完食していた。 「よく食うなぁ、ほんと」 「普通です。理人こそ酒ばかり飲んでないで、自分が頼んだ物くらい食べたらどうですか」  言われてふぐ刺しに箸を伸ばすと、煌夜が少しだけ満足そうに笑った。 「黒蜜きなこの抹茶アイス」 「………」 「理人?」 「ああ、……何でも頼めよ」 「どうしたんですか、ぼんやりして」  目の前に広がる安っぽい夜景に絆されて、俺は煌夜の肩を抱き寄せた。 「理人、……」 「今度のデカい仕事が終わったら、グループ抜けるからよ。……そしたら煌夜、俺と何処か遠い町に行かねえか」 「え……?」 「俺とお前の二人で、イチから全部やり直してえ」  視線を向けると、煌夜も俺をじっと見つめていた。無垢な瞳がネオンの煌きを受け、静かに揺らめいている。 「新しい仕事も探す。あんな小汚ねえ事務所じゃなくて、ちゃんとした部屋も用意する。煌夜がやりたいことは、全部叶えてやる」 「………」  答えを渋っているのではない。煌夜は耳まで赤くなっていた。  ――俺の本気のプロポーズを、煌夜はちゃんと受け止めてくれたのだ。 「理人」  俺の片腕に抱かれたまま、煌夜が溜息をつくように囁く。 「俺は、理人の……貴方のために、自分の力を使えるならそれで、……いいんです」 「遠くには行きたくねえか?」  笑うと、煌夜がかぶりを振った。 「俺に気を遣わないで下さい。俺がそんなに多くを望んでないことは、理人も分かってるでしょ。……俺のためでなく、自分のために生きて欲しい」 「俺のために自分の力を使うって言ったお前のために、俺は生きちゃいけねえか」 「俺はいいんです。俺は理人に拾われてからずっと、理人のために生きると決めてるんですから」 「うーん、俺ってば幸せ者。プロポーズをプロポーズで返された」 「……馬鹿じゃないですか」

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