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選ばれた堕天使・5

「も、もう無理っ、……! イく、イっちゃ……」  強くシーツを掴んで喉を反らせた瞬間、身体の芯がじわりと熱くなった。反り返ったそれの先端から迸った精液が腹にかかる。 「は、ぁ……あ、あぁ……」  挿入された訳じゃないのに――それは、かつてないほど最高の形で到達したオーガズムだった。 「お前、名前は何だっけか」 「……リオ……」  口元の唾液を手の甲で拭ってから、悠吾がシャツを脱いで言った。 「リオ。お前は今まで客の性処理の道具になり切っていたんだろう。ケツを使われることには慣れていても、ペニスや睾丸への愛撫には処女のような反応をする」 「………」 「本当はもっと優しく、丁寧に抱いて欲しいんだろ。客にサービスする分、心では金以外の見返りを求めていただろう」  俺は潤んだ目で悠吾を見つめていた。音もなく頬を伝う涙が、シルクのシーツへ染みてゆく。 「お前が今までしてきたものはセックスじゃねえ。楽しんでいる訳でもなく、物としてぞんざいに扱われる。そんなものはレイプと同じだ」  揺らめく視界の中で、悠吾が優しく囁いた。 「俺がお前にセックスを教えてやる。初めてお前を抱く男は、俺だ」 「悠吾、さん……」  触れ合う肌と唇は温かかった。  ゆっくりと貫かれる感触に脳が痺れた。  抱きしめた背中は広く、囁きは優しく、涙も、汗も声も……全てが甘く、心地好い。 「悠吾さんっ、……あ、あっ!」 「さっきのような対面座位が良いか? 何でもお前の好きなようにしろ」 「い、い……このままで、……あっ、ん、正常位が、いぃっ……」 「そうか、分かった。綺麗だぜリオ」 「んぅ、あ……、ああっ……!」  目が覚めるようなセックスはその日、俺の運命を変えたのだと思う。  汗ばんだ悠吾の胸元に頭を乗せて微睡んでいると、悠吾が俺の髪に鼻先を埋めて言った。 「惰性のセックスに疲れた時は、いつでも俺が相手をしてやる」 「……ほんとに」 「ああ。そのためにお前も、もうひと頑張りしてくれるか」  無意識のうちに頷いていたのだろう。悠吾が俺の頭を撫でて、笑った。 「今度のオークションでお前に誰よりも高い値が付いたら、俺専用の愛人にしてやるよ。金の面倒は全て見てやる。お前の弟にも不自由な思いはさせねえ」 「弟のこと、知ってたの……?」 「ああ、書類選考の時点で店長から聞いていた。……今まで孤独に頑張ってたんだな、リオ。俺がそれを知ったからには、もう何の心配も要らねえ」 「………」  涙を拭う俺を、悠吾が強く抱きしめてくれた。  こんなふうに優しくして貰えたの、生まれて初めてだ。薄っぺらな囁きと卑猥な言葉に塗れていた俺には、身も心も任せられる誰かなんて絶対に現れないと思っていた。 「泣くな」 「ごめ、……俺、嬉しくって」 「そんなことを言われたら、また抱きたくなる」 「抱いて欲し……何度でも、して欲しい……」 「そうか。それなら今夜は、一晩中お前を愛でてやる」 『メインになる商品が決まった。〝イーゲル〟を呼んでおけ』

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