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選ばれた堕天使・7

 イーゲルが口元に指をあてて小首を傾げた。 「Cは、女の子。女装した男の子。可愛くてエロくて、女の子よりも女の子らしい、特別な子」 「い、嫌だそんなの。何で俺が!」 「悠吾様が決めたんだから仕方ないよ。業界には変態も多いけど、まだ男に抵抗があるお客様もいるでしょ。そういう人にも気軽に競りを楽しんで頂くために、君のような特別な商品が用意されるんだ。責任重大だよ」 「俺に女装させるってこと? 別に、男が無理なら本物の女を用意すればいいじゃんか」  自分が最低なことを言っているのは分かっていたが、それでも、どうしても女装だけは嫌だった。そういう趣味がない男にとって、女の代わりにされるというのはこれ以上ない最大の屈辱なのだ。  ダメダメ、とイーゲルが両手を振る。 「普通の女の子じゃ満足できない方達なんだから、そんなのつまらないでしょ? 分かるかなぁ、この感じ。見た目は完全な女子なのに、アレが付いてる背徳感」 「………」 「きみ、悠吾様に抱かれてきたんでしょ? その上で悠吾様がC判定下したってことは、その素質があるんだよ」 「………」 「あぁっ、泣かないで、ほら。別にきみは騙された訳じゃないよ。悠吾様は本当に君を気に入ってる。だからこそ、こんな栄誉を与えてくれたんじゃないか」 「か、帰りたい」 「ダメ」 「じゃあ、悠吾と話を……」 「ダメ、ダーメ」  俺はごねる子供のように首を振り、その場で地団駄する勢いで叫んだ。 「嫌だ! 絶対にそんなのやらねえからな! 誰がそんな変態クソ野郎共相手に――」  ヒュッ、と音がしたのに気付いた時には、既に頬を張られていた。 「………」 「ごめんよ、悠吾様から初日の二、三回なら顔を叩いていいって聞いてたから、つい」  立ち上がったイーゲルの手には乗馬鞭が握られていた。張られた頬がじんじんと痛み、両目と喉の奥が焼けるような熱さに襲われる。 「う、……」  俺はそれこそ子供のように泣いた。鼻水を垂らしてしゃくりあげ、息もできないくらいに、声をあげて泣いてしまった。  騙されたんだ、俺は。優しくされて本気になって、うかれて、全部嘘だったのに――馬鹿みたいだ! 「俺は今回きみ専用のスタイリストだけど、いつもは相棒のヴェルターと交代で調教係もやってるんだ。いい子にしてたら優しくしてあげる。リオ君、今は泣いてもいいけど落ち着いたら一度お着替えしようね」 「う、ぅ……」 「今のうちに言っておくけど、汚い言葉はダメだよ。今度お客様をクソ野郎なんて呼んだら、ヴェルターと一緒にきみを地獄に落とすからね。辛いよ、きっと」  大丈夫、頑張って、とイーゲルが俺の背中を撫でる。  涙は止まったけれど、……身体中の震えが止まらなかった。

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