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始動・8
「ちなみに、落札額は覚えてるか。大体でいい」
「普通の子は一本いかないくらい。調教済みの子は一千五百は行ってたかな。その子の競りの途中で帰ったから分からないけど、最低でもその額ってことだろうね」
「となると、四人目以降は五千万から億に届く可能性もありますね。後に控えてる人の方が自信ある商品とされていただろうし」
リオが今回集められた中でどれほどのランクに位置しているかは分からないが、あの容姿だ――奴らにとって何かプラスになるような手を加えれば、目玉扱いされることも充分に有り得る。
「今年もやるんでしょ、馴染みのお客さんに聞いたよ。同伴で出席するかって誘われたけど、冗談じゃないって断った」
ダリアが冷めたように言って紫煙を吐いた。
「……え」
「おい、ということはアンタの店の客も」
「割と多いよ。政界だの芸能会だの、柳田さんとこと繋がりがある人達がさ」
理人がソファから身を乗り出し、早口で捲し立てる。
「じゃあ今回のイベントに行く奴らについても、何人かは目星がついてるのか? 確認の連絡取るのは可能か?」
「まあね。ていうか今日も来てるんじゃない? あの人達、根っからの変態だから」
「あ、会わせてくれ。今すぐ」
理人が焦るのも無理はない。これは予想外の収穫だ。今までは想像の中の朧げな「客」でしかなかった彼らの素性が何人かでも分かれば、味方にできる可能性だってゼロではない。それこそ金を積んでも、脅してでも。
が――
「駄目だよ、こういうのは客の個人情報にも引っかかるから。簡単に紹介なんてできる訳ない」
ダリアが切れ長の瞳を更に細めて理人の顔を見据える。
しかし理人は引かなかった。この機会は絶対にモノにしなければならない。伸ばした両手でダリアの手を握り、あのぎらついた狂犬の熱い眼差しで、真正面からダリアに誠意をぶつけたのだ。
「謝礼なら幾らでも払う。頼む、俺達は友人を救いたいんだ」
「金なんか要らないよ。……でも」
「でも、……?」
ダリアが悪戯っぽく笑って、突然、身を乗り出した理人の鼻先に軽いキスをした。
「この件が終わった後でお兄さんが一晩付き合ってくれるなら、考えてもいいよ」
「………」
恐る恐る、理人が俺に視線を向ける。
「……煌、……」
「頑張って下さい、理人」
「ふっ、ふざけんなぁっ!」
「あれ。要らないの顧客情報」
「要る! てかアンタ、それやってることあいつらと同じだからな!」
「失礼だな。僕は対等な立場から条件を出しただけだよ」
理人が頭を抱えて項垂れたのを横目に見ながら、今度は俺がダリアに言った。
「一応言っておきますけど、彼は俺のパートナーなので。手荒な真似はしないと約束してくれれば」
「いいよ、他人の男を寝取る趣味はないから安心して。ほんの少し遊ぶだけ」
「分かりました。信用しますよ」
「勝手に話を進めんなって、お前ら!」
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