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第8話・開幕

 貴女は一体誰なのかと、閉じた瞼の奥で問いかけるが――ほんの少し桜の香りは強くなっても、それに対する応えは返ってこない。  この世に留まる魂達は、朧げな形のままで俺の前に現れては消えてゆく。何かを訴えたいのは伝わるが、死者の念は大抵生きている者のそれよりも薄く、弱い。俺は視界に彼らを捉えることができても、何も干渉できないのだ。  ただ、視えるというだけの目。ただ、感じ取るというだけの心。ただ、影響を受けてしまうというだけの体。  そんな厄介とも思える力を手にした時、初めて俺の世界に現れた貴女。ただ俺の傍に立ち、言葉を発することなく薄桃色の香りを舞わせるだけの貴女。  お互いに無力だった。触れ合うことも出来ず、気持ちを通わせることも出来ない。    悲しいほどに無力な俺達だが、誰よりも長く一緒にいた。

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