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焦り・5

 ステージの袖から出て来た悠吾が手を叩いて笑った。声をあげ、げらげらと笑っている。 「素晴らしいぜ、社長。お前の男気は分かっていたはずだが……甘く見てたようだ。いや、悪かった」  理人は依然として黒服に押さえ付けられたまま、血走った目で悠吾を睨み付けた。 「社長の男気に俺も応えねえとな。……イーゲル、俺は二億出すぞ。競りは続行だ、お前らも続けろ」 「えぇっ? 悠吾様、本気ですか?」  ウェルターが煌夜の手枷を外し、自重で倒れ込んだ煌夜の体を後ろから軽々と抱えた。両脚を開かせ、露出した性器を「理人に」見せつける。 「三億だクソがァッ!」  理人の咆哮に悠吾が口元を弛める。そうしてウェルターから受け取ったリードを強く引き、イーゲルを足元に跪かせた。その意図を理解したイーゲルが、伸ばした舌で煌夜の剥き出しの睾丸をぞろりと舐め上げる。 「……美味し。僕もこの可愛いタマタマに三億五千だニャ」 「お前が参加してどうすんだ、馬鹿イーゲル」 「だって誰でも参加していいんでしょ?」  もはや客席の誰もが口を閉ざし、競りの行方を焦れた様子で見守っている。 「それなら、俺は四億だな」 「えー、悠吾様ずるい」  気が狂いそうになるほどの怒りで、もはや感情に思考が追い付かない。獣のように荒い呼吸を何度も繰り返す理人を止めたのは尚政だった。 「社長、落ち着いてくださいっ! 奴らの挑発ですよ、乗ったら駄目です!」 「うるせえッ、五億だ!」 「社長っ! マジでこのままいくと殺されますって!」 「放せ、尚政ッ! 畜生っ、てめぇらも放しやがれッ!」  言いながら暴れる理人の腰にタックルを喰らわす形で、尚政が理人の体を背後の黒服ごと床へ押し倒した。 「壮真社長の五億が現在の最高額ですよ。悠吾様、どうします?」 「五億か……厳しいが仕方ない。六億出そう」 「ああん、悠吾様カッコいい!」  始めから不毛な争いであることは分かっている。柳田グループのトップに君臨している男相手に、一介の社長である自分が金の張り合いで勝てる訳がない。奴らにとっては遊びのような展開だが、悠吾は払うと言ったら払うし、こちらが一度提示した額は必ず回収する。それこそ、体をバラしてでも。 ――このまま行けば殺される。尚政の言葉は大袈裟でも何でもないのだ。  理人は倒れたままで目を剥き、天井を仰いで咆哮した。 「十億だ、クソ共がァ――ッ!」 「社長、頼むから気を確かに持って下さい!」 「ざけんなっ、煌夜にあんな真似されて黙ってられるか! あの野郎共、ぶっ殺してやる!」 「それは分かりますけど! お、落ち着いて。冷静に考えて下さいっ。ぶっ飛ばすなら金払う必要なんかないんですから!」 「っ……!」  尚政と揉み合う理人を見て、龍司が弾かれたようにその場から駆け出した。 「ちょ、龍司どこ行くんだよっ? お前も押さえるの手伝えって、おい!」  尚政の声を背に受けながら、龍司がフロアの階段を全速力で駆け下りて行く。 「龍司っ――!」 「悠吾様。逃亡者の彼、どうします?」 「放っておけ、耐えられなくなる気持ちも分かるさ」

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