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7.お泊りといいコト3

 家までの途中にあるファミレスで夕食を済ませ、家に着いてさっそく大原のやりたがっていたゲームをする。前回遊びに来たとき、協力プレイでゾンビを倒しながらステージを進めるゲームをしたのだが、大原はものすごく下手だった。同じシリーズの古いものを神崎と岸田が持っていたらしく、一緒に練習したらしい。下手には変わりないが、以前より上達していた。 「あ、早川!待って、死にそう!」 「えっここで?!ちょっと待って助ける!」 「早く!」 「じっとしてろよ!あ、あんまりそっち行くとやばいって」 「え、マジか。あっ」 「ほらー、言ったじゃん」  上達していても、やはり大原が足を引っ張ってしまってなかなかステージが進まないが、何度も出る彼の珍プレイに早川は腹を抱えて笑った。進むスピードは遅いが、やはり二人で一緒に何かをするのは楽しい。 「うわ〜〜大原やっぱりめっちゃ下手〜〜!」 「もう1回やろう!」 「いやー、俺ちょっと休憩する」 楽しい時間はあっという間で、気が付いたら三時間以上続けてゲームをしていた。早川はさすがに疲れてしまったが、大原はまだやり足りないようだ。 「あ、俺風呂入ってくるから、やってていいよ」 「わかった。練習してる」 さっそく1人プレイにモードを切り替えて、黙々とゲームをやり始めた。  早川が風呂から出て部屋に戻るまでやっていたので、本当にゲームがやりたかっただけなんだ、となんだか肩の荷が降りた気がした。大原は泊りだから、なんて全く意識していないように見える。変に意識していたのは自分だけだった、と早川はホッとした。 「大原、風呂入りなよ」 「うん…あ、もう10時半か」 時間を忘れるくらいのめり込んでいたようだ。明日はまだ春休みの期間だが、大原も早川も、補習と部活のため学校に行かなくてはならないので、そんなに夜更かしをしている訳にもいかない。  大原を風呂に案内して、早川は部屋に戻る。さすがにもうゲームは飽きたから、テレビを付けて適当にスマートフォンを弄りながらベッドの上でごろごろする。スマートフォンの検索窓の履歴に男同士、セックス、なんて卑猥な文字が残っていた。変に意識して色々調べていたのを忘れていたが、今日はもう必要ないだろう、と検索窓と履歴を消した。こんなのが自分のスマートフォンに残っているのも嫌だ。  大原が風呂から戻ったら、今日はもう一緒にごろごろしながら寝るだけ。それでいい。  それでいい、と思っていた。  ガチャリ、と部屋のドアが開く。大原が戻ってきた、と思って起き上がった。 「あ、おかえり……」   戻ってきた大原の姿に、釘付けになった。  上半身は何も身に付けておらず、スエットのズボンだけ履いている。頭からバスタオルを被っていたが、髪がしっかりと乾いてないせいか、彼が顔を上げた途端、ぽたりと髪を伝って滴が落ちた。  色気、というのだろうか。普段の大原からは感じられない、何かものすごく惹きつけられるものを感じた。彼の首筋から、胸から、腹から目が離せない。ドキドキと煩いくらいに心臓が音を立てている。  ごくり、と唾を飲んだ。 「早川、悪いんだけどシャツ忘れたから貸してくれ。あとドライヤーはどこに……」 「ねえ、こっち来て」  大原の言葉を遮って、自分が座るベッドの空いているスペースをポンポンと叩いた。どうした、とそのままの格好で大原は早川の隣に座る。  ふわっと、自分のものと同じシャンプーの香りがする。好きな人から自分と同じ匂いがすることに、酷く興奮した。身体の芯に熱が集中するのを感じる。  今、早川は大原に欲情しているのだ。  隣に座った彼の肩を掴んで、強引にキスをした。しっかりと唇を合わせて、離れないようにぎゅっと肩を掴んだ手に力を入れた。彼は驚いたようで、一瞬びくりと肩を震わせたが、すぐに早川を受け入れて、何度も啄むようなキスをしてくれた。大原も、離れないようにと早川の後頭部を支える。何度も夢中になってキスをしていると、大原の被っていたタオルが床に落ち、パサリと音を立てた。その音を合図に、ふたりは一度唇を離した。 「大原、そのカッコ、なんかえろい…」 「え…あっごめん。その、シャツ忘れたみたいで…」 「うん、さっき聞いた」  キスのせいで、身体の芯が更に熱くなった。きっと今自分は欲情した酷い顔をしている。そう思ったら目を合わせられない。しかし、視線を落としたら大原の身体が目に入る。普段は見ることのない肌色に、またドキドキと胸が高鳴った。  もう駄目だった。意識しないと決めたのに、彼の顔が、声が、身体が、香りが早川の欲を焚き立てる。触れたい。触れて欲しい。キスしたい。キスして欲しい。彼を、大原永太郎を全身で感じたい。  早川の欲を感じ取ったのか、今度は大原からキスをしてきた。啄むようなキスを角度を変えながら何度もした。一瞬だけ、早川が息を吐こうとして口を開けると、ぬるりと大原の舌が侵入してきた。 「んっ!…んんっ…ふ、ぅんっ」  最初は驚いて肩を震わせたが、すぐに大原に応えようと一生懸命に舌を絡ませた。上顎や歯列をねっとりと撫でられ、背中にピリピリと電流のようなものが走るのを感じる。身体の芯に、下半身に熱が集中して、耐え切れずもじもじと両膝を擦り合わせる。未知の感覚に戸惑うが、もっと欲しい、と求めるようにぴちゃぴちゃと音を立てて舌を絡ませた。 「ふぁ…んっ、ぅんっ…んんっ」  息が上手く出来なくなるほど気持ち良くて、頭がクラクラした。快楽のせいなのか、酸欠のせいなのかはわからない。ズクリ、と下腹部に熱が溜まる。苦しいのに気持ち良くて。離れたくない。 「ん、…ふ、あぁっ、はあっ……」  早川が上手く息が出来ていないことに気が付いたのか、大原が一旦離れた。二人を繋ぐ銀の糸がぷつり、と途切れた。解放された早川は肩を上下させながら息を整えた。  大原は濡れた前髪を片手でかき上げ、ぺろりと自身の唇を舐めた。その何でもない仕草にすらドクドクと全身の血が波打つほど興奮した。あの舌が、先程まで早川の口内で暴れていた。今まで感じた事のなかった快楽を与えてくれる。もっと、欲しい。  大原を見つめていると、ばちりと目が合った。いつもと違う、熱の籠もった視線を向けられる。彼も、早川に欲情している。  自分も彼も同じだとわかったら、羞恥心なんてどうでもよくなった。 「ねえ、もっと、んっ…ふう…、ン…」  もっとちょうだい、と言い切る前に口を塞がれた。ぴちゃぴちゃと舌の絡み合う音と、早川の鼻から抜けたような声だけが部屋に響く。熱い。気持ち良い。頭がふわふわする。下半身に集中する熱は一向に冷める気配がない。早川の中心は、狭い下着の中で芯を持ちはじめていた。  キスをしながら、大原が早川の背中に手を回す。そのままゆっくりと座っていたベッドに押し倒される。身体に力の入らない早川は、されるがままにベッドに倒れた。 「…ふっ、んぅ……っはあ…はあ…」 「ん……ごめん、早川」  やっと解放された、と肺いっぱいに空気を吸い込む。目にうるうると涙を溜め、一生懸命胸で呼吸している早川と違い、大原は涼しげな顔をしていて少し悔しい。しかしよく見ると、酸欠からなのか興奮からなのかわからないが、少しだけ息が上がっていた。 「な、んで…謝るの?」 「…嫌なことしないって、約束したのに。ごめん」 「え…ええ?」  今のどこが嫌そうだったのか、早川には全くわからない。むしろ、もっとと強請ったのは早川の方だ。 「だって、泣きそうになってる……ごめんな、無理させて」 「えっいや、これは違うし!」 「え?」 「い、嫌じゃなかった……ってか、めっちゃヨかった…」  語尾に近づくにつれて、だんだんと声が小さくなっていく。本当はこんなこと言いたくなかったが、大原は言わないときっとずっと謝る。だから、言った。顔から火が出るほど恥ずかしかったが、しっかりと自分の気持ちを伝えた。  大原も恥ずかしそうにそっぽを向いて口元を抑えた。 「なんで大原が照れてんの!恥ずいのは俺だろ…!」  本当に今日は恥ずかしいことばかりだ。初めてのディープキスがでトロトロにされ、強すぎる快楽に泣きそうになった。こんなはずではなかったのに。  いつの間にか、早川の開いた脚の間に大原がいて、大原に早川が押し倒されている、いかにもアレな体制になってしまっていた。  これはさすがに、と思ったのか、大原が早川の脚の間から避けようとした、その時。  ゴリっ、と大原の脚がしっかりと早川の股間に当たった。 「んっ…!」 「え…あっご、ごめん!」 強めに擦るような感じで当たってしまったせいで、吐息混じりの声が出てしまった。慌てて口を自分の両手で抑えるが、キスだけで完全に勃たせているのが、大原にしっかりと伝わってしまった。  大原はというと、少し驚いてる様子だった。しかし、すぐにいつもの優しい顔に戻る。早川を見つめる時の、愛おしいもの愛でる時のような視線。いつもならその視線に幸福を感じるが、今は違う。大原の与える物は、今の早川にとっては興奮材料にしかならない。 「…勃たせるほど、気持ちよかった?」  なんて恥ずかしいことを言わせるんだ、と思ったが素直な早川はこくり、と首を縦に振る。少し期待してしまった。ここで素直にそう答えたら、もっとすごい快楽を教えてくれるのではないか、と。  大原は安心したように息を吐き、寝そべったままの早川をぎゅっと抱きしめた。 「…嫌がられたらどうしようかと思った」 「大原も、緊張してたの?」 「当たり前だろ。早川、なんか今日変に緊張してるし、そういうことはしないって思ってたんだけどな…」 「うっ、ごめん…」 勝手に変に意識して緊張して、気を遣わせてしまったようだ。しまいには自分の方が勝手に盛ってしまったなんて、情け無くて何も言えない。  大原がそのままの体制で、早川を抱き起こした。胡座をかいた大原の脚を跨ぐようにして、向かい合って座る体勢にさせられる。自然と彼の下腹部に芯を擦り付けてしまうほど密着して、恥ずかしくなった。またぐりぐりと下半身に刺激が与えられ変な声が出そうになったので、慌てた口を抑えた。 「触っても、いいか?」  何を、なんてそんな野暮なことは聞き返さない。それがわからないほど、早川は子供ではなかった。  これから待ち受ける快楽に息を飲んで、こくり、と頷いた。

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