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8.会えない時間と胸のもやもや1

  春休みが終わって早川は二年生になった。4月ももう中旬を過ぎ、やっと新しいクラスにも慣れてきた。  一年生のとき良く連んでいた岸田とはクラスが離れてしまったが、神崎とは一緒だ。神崎は今まで通りだし、岸田も廊下などで会えば話をする。しかも、体育や芸術系の授業は早川たちのC組と岸田のいるE組が合同で行うので、何だかんだで一緒に居ることが多い。    二年生になったからと言って、自分の身の回りの生活に然程変化はない。学校へ行って部活の朝練習に出て、授業を受けてまた部活の練習へ行く。その繰り返しだ。  ほとんど変わっていない生活の中、三つだけ変わったことがあった。  まず一つは、花壇の世話をしなくて良くなったこと。用務員の男性は病気療養のまま退職してしまったが、一部の生徒に負担を掛けるのは良くないという事で、当番制になった。全校生徒でまわすので、早川の当番が来るのはまだまだ先だ。大原と親しくなったきっかけの仕事が無くなるのは少し寂しいと感じたが、今はそんな口実が無くても一緒に居られるようになったので良しとする。  そして、二つ目。 「あ、ナゴー!2年生の子が来てるよー!」   昼休み、3年生になった大原のクラスに行くと決まってある女子生徒が大原の近くに居るようになった。  髪が長くて。早川より背が高いスラっとしたスタイルの良さが印象的な女子生徒だ。  2年生の時は教室の入り口に行っただけで気付いてくれたのに、席が変わって入り口が見づらい位置になってしまったせいか、気付いてくれなくなってしまった。代りに、大原の隣の席に居る女子生徒が気付いてくれる。  気付いてくれるのは有り難いが、いつも大原の隣にいる彼女に、すこし胸がもやもやする。大原を呼ぶ時、ただ名前を呼ぶだけでいいのにわざわざ彼の肩に触れるのだ。もやもやする。それを大原が当たり前のように嫌がっていないことも、少しもやもやする。 「早川!ごめん、待たせた」 もやもやしてばかりだったが、大原が自分の元に来てくれると胸が晴れる。ここのクラスメイトより、あの女子生徒より自分を優先して来てくれるのだ。それが早川は嬉しかった。だから、この胸のもやもやする感覚も我慢できた。  あともう一つ、学校以外の生活で変わったことがある。 * 「っん、ぁ…」 自慰行為の回数が確実に増えた。それはもう倍以上に。  先日、大原が家に来て二人で触れ合ったあの時から早川の性に対する欲がおかしくなってしまった。元々、そんなに性欲があった方ではなかったが、あの春休みの日を境に毎日毎晩、大原に触れられた時のことを考えるようになった。  大原はあの時、どうやって触れただろうか。ひとつひとつの動作を思い出して、あの時と同じベッドの上で自分の気持ち良いトコロを探す。 彼がこの前やったように竿を扱きながら先端を指の腹でくるくると円を描くように撫でる。気持ち良いが、自分の手だけでは物足りない。 『…はっ、気持ち良い、な? 』 「んぅ……は、ぁ…」  あの時のような、切羽詰まった彼の姿を思い出す。どっぷりと自身から流れる先走りの量が増える。自然と手の動きが早くなった。 「ん…おーはら……っ」  ドクドクと自身が震え、ぴゅっと勢いよく精を吐き出した。それをしっかり手で受け止めて、ティッシュで拭き取り丸めてゴミ箱へ捨てる。  致している時はあんなに夢中なのに、終わってしまうとスッと冷静になる。そしていつも後悔するのだ。  大原で妄想して抜いてしまうなんて、と。  今まではこんなこと一回も無かったが、ここ最近は毎日だ。毎日学校で会う度に、勝手に恥ずかしくなって、勝手に罪悪感で申し訳なくなる。  気が付けば、二人きりになれる日はないか、誰にも邪魔されない場所はないかと考えるようになった。二人きりになって、また一緒に気持ち良い事をしたい。  こんなこと面と向かって彼には言えない。いやらしい奴、と思われたくないからだ。けれども、いやらしいことをシたい。ものすごく矛盾しているのは分かっているが、この気持ちはおさまらない。  高校生ではなくて大人だったら、ホテルに行って好きな時に出来るのだろうか、なんて想像しながら溜め息を吐く。 「あー…会いたいなあ…」 今日の昼休みに会ったばかりなのに。  今何してるの? とメッセージを送ったが、暫く経っても既読にならなかった。彼は受験生なのだから、きっと勉強しているのだろう。  最近の彼は受験勉強とバイトで忙しそうで、なかなか一緒に居ることが出来ない。朝も放課後も補習で、休みの日も休日補習。そして休日補習が終わったらバイトに行ってしまう。ここ最近は、なんとか時間を取って昼休みに少しだけ会う程度だ。仕方のないことだと分かってはいるが、少し寂しい。  はあ、とまた大きな溜め息を吐いて枕に顔を埋めた。もうそこには、大原の匂いは残っていなかった。

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