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10.親子喧嘩と手作り弁当1

「なぁーんか、なあ…最近なあ……変だよなあ…」 「………居心地悪い」 「だよなあ…今日も部室行っとく?」 「……ギリギリまで練習しよう」  夏が始まりかけた6月の頭。夏だ、という暑さはまだやって来ない。代わりに、現在は梅雨の真っ只中。じめじめした空気が纏わりついて離れない。そのせいか、隣に座る二人もなんだかじめじめした空気を纏っていた。  今日の午後の授業は体育でバスケ。体育は他クラスと合同で、早川と神崎のCクラスと岸田のEクラスが一緒に授業をすることになっている。  自分たちのチームの試合待ちの間、壁際に座って喋っていたのだが、なんだか岸田も神崎も元気がない。梅雨のせいで気が滅入っているのだろうか。 「どうしたんだよ、せっかくの体育なのにー」 「みんながみんな体育程度で喜ぶと思うなよ、この脳筋!」 「な、なんだよ!心配してんのに!」 「心配?俺らはとばっちり喰らってるだけの被害者だよ!お前のナゴと佐野さんの!」 「え、ナゴがどうかしたの?」 思わぬ人物の登場に、早川が驚いた顔をする。この岸田の言い方だと、大原と佐野が何かをやらかしたように聞こえる。   「どうしたも何も…俺らも分かんないんだよー。なんか二人してピリピリしてる」 「……早川、何か知らない?」  ブンブンと首を横に振る。最近変わらず春休みに会っているが、大原から佐野の話なんて全く聞いてないし元気がないような様子も無い。午後の授業が始まる前にも会ったが、特にいつもと変わらない様子だった。 「早川には言わねえだろ、あいつ。早川の前では格好付けたがりだもん」 「……そっか。親子喧嘩、ダサいもんな」 親子喧嘩なんて、しばらくしていないから良く分からない。最後にしたのは小学生の頃だっただろうか。普通なら高校生にもなってしまえば、親とそんなに大喧嘩するようなことも滅多にない。   普通の親子ならば、だ。  彼らは家族と呼んではいるが、大原と佐野は親子ではない。 「…悩んでるなら、言ってくれてもいいのに」  頼られていないような気がして、少しだけ寂しくなった。 大原には、自分のことを話さないという悪い癖がある。以前、進路のことで悩んでいた時も早川がしつこく聞いてやっと話してくれた。彼は聞き上手でついつい話し過ぎてしまう早川にも原因があるのかもしれないが、それでも彼は話さな過ぎる。 「運動会までになんとか仲直りしてくんねーかなあ〜…」 「何で運動会まで?」 「……弁当の中身に関わる」 この学校の6月は忙しい。中旬に運動会があり、終わった直後からテスト期間に入る。テストが終わったらあと夏休みまで何も無いので、休み前最後の学校行事だ。  運動会まであと1週間ちょっと。今日の体育も雨が降っていなかったら、本当は外でリレーの練習だった。  学校行事の日は購買が休みなので、普段購買弁当組のこの二人も、この日は家から弁当を持って来なければならない。作るのはもちろん、保護者代わりの佐野である。 「あの人、滅多に弁当なんて作らないからめっちゃ張り切って作ってくれるんだよ。調子がいい時は!」 「悪い時は?」 「……超適当」  このままじゃ超適当弁当になる、と岸田が大きなため息を吐く。  食べ盛りの高校生にとって、弁当は重要だ。1日運動する学校行事なんて腹が減るに決まっている。なんとしても超適当弁当は避けたい、というのが岸田と神崎の切実な思い。 「……早川、どうにかならないか?」 「えっ、俺?」 「……ナゴ、そういうの見せないだけで、きっと落ち込んでるから」 「ああ…あいつそういうトコあるよなあ、昔っからさ〜」 「…だから、早川が聞いてあげて」 「頼むぞ〜、俺らの為にも、あいつの為にも!」  以前にも、神崎に大原の話を聞いてやってくれと頼まれた事があったような気がする。  正直、他人の弁当事情にはあまり興味はないが、大原が落ち込んでいるというのであれば話は別だ。どうにか力になってあげたい。

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