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10.親子喧嘩と手作り弁当6
次の日、天気は快晴。
心配されていたグラウンドのコンディションだったが、昨日の雨で出来た水たまりは、今日のこの太陽と、野球部員やソフトボール部員たちのグラウンド整備力のおかげで見事に無くなっていた。
梅雨の期間にこの清々しい天気で運動会を迎えられたのは、奇跡と言ってもいいかもしれない。
「……ついに運動会が、来ちゃったな」
「……うん」
朝のホームルーム前、何故かクラスのちがう岸田も教室にいた。
二人は朝からげんなりしていた。きっと弁当の件だろう。
昨日は結局、大原から連絡が来ることは無かった。きっと佐野と深い話をしていて連絡どころではなかったのだろう。けれども、やはり結果は気になる。
会った時に聞けばいいやと思っていたが、やはり学校行事の日は色々バタバタしていて忙しい。
「仲直りしてないの?」
同じ家に住んでいるのだから知っているだろうと思って聞いてみたが、二人は知らないと首をぶんぶん横に振った。
「3年は朝から準備があるらしくて、ナゴ早く家出たし、佐野さんは寝てたし。弁当が入ってる保冷バッグがどんってテーブルにあっただけ」
「……中身は、怖くて見れなかった」
「そうそう!あのサイズに白米しか入ってないとなると…怖いよな?!」
ちなみに去年の運動会は、岸田が佐野を怒らせて2段弁当に白米と梅干と海苔が詰まっていたらしい。手抜きにも程がある。
だがその時の件は100%岸田が悪かったので仕方がない、と神崎は言っている。
「…でもなあ、例え仲直りしてても昨日のあの様子じゃあ早起きも何も出来ねえよなあ。家の中、酔っ払いだらけですっげーカオスだったし」
「……あのふたり、酷かった」
昨日、神崎が送ってきた写真を思い出す。あの床に転がっていた二人は間違いなく二日酔いだ。弁当作りどころではないのかもしれない。
「そんな気になるなら、今見ちゃえよ!」
ふたりがあまりに大事にするものだから、早川も気になってきてしまった。運動会が始まるまでまだ時間はある。岸田のは手元にないので、神崎のカバンの中から見えていた保冷バッグをひょいっと取り出した。
「あ、早川!おまえ他人事だからって!」
「だって気になるんだもん!いいじゃん、食わないから!」
「そういう問題じゃねーよ!」
俺の1日のテンションに関わる、などとわあわあ騒いでいる岸田を無視して、神崎の許可も得ず弁当箱を開けた。
「…………」
「…なんか反応しろよ!」
早川が何も言わないでいると、やはり気になっていたのか岸田と神崎も弁当を覗きにきた。
「……お、おお!すげえ!」
「……よかった」
歓喜の声を上げた岸田と、ホッとしたように息を吐いた神崎が大喜びでハイタッチをした。
中身を見て、昨日の結果はすぐに分かった。
気のせいかもしれないが、ハンバーグやコロッケなど、意外と子供舌で大喰らいな大原の好きそうなものがたくさん詰まった、大きな弁当。
弁当の件には関係ないが、早川も嬉しくなった。
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