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11.穏やかな日常と戻らない時間3
何の目標もないテスト期間はつまらない、と早川は思う。
本気で頑張った去年の後期中間テストは、クリスマスデートという目標があった。結局それは叶わなかったが。
その次の後期期末テストは、進級と春休みがかかっていた。もちろん、頑張るしかなかった。
しかし、今回の前期中間テストはどうだ。
夏休みが近いと言えば近いが、1ヶ月近く空くのでそんなに近くない。学年が上がって初めてのテストなので、進級に直接関わったりしない。
つまり、何のスリルも無くてやる気が出ないのだ。
そんな心待ちの中、ダラダラと登校していると、よく知っている4人組が歩いているのを見つけた。
テスト期間中は、朝の補習も部活もないので、みんなだいたい同じ時間に登校するのだろう。
「なあなあ、夏休み海行こうよ」
「……行きたい」
「ねえ弟よ、私たち3年生は受験生なのでそんな誘惑しないでくれる?」
「えー、1日くらいいいじゃん。ナゴも行きたいだろ?早川も誘ってさ」
「いいな、行きたい」
「ええ、いいの?ナゴがそんな誘惑に負けるなんて…」
「優菜、行きたくないなら行かなきゃいい」
「行きたいに決まってんじゃん!あー、冷たい。最近ナゴ冷たい」
4人一緒に登校なんて珍しい。その中に大好きな背中を見つけた。少し気が早いが、夏休みの話をしているようだ。
楽しそうに話している。会話に混ぜてもらおうと、最愛の人の名前を呼びながら駆け足で追いかけた。
「おーい!ナゴー!」
声に気付いた大原が振り返った。早川を見つけて嬉しそうな顔をした。
しかし、その顔は一瞬で驚きの表情に変わる。
一緒に振り返った岸田と神崎、そして岸田の姉も目を驚いて見開いていた。
「早川!危ない!」
岸田が叫ぶ。
なんだ、と思った時にはもう遅かった。
振り返ると、目の前には止まる気のないスピードで突っ込んでくる乗用車。
生徒の悲鳴、そしてガシャン、ドン、と何かがぶつかる大きな音。
全身への強い衝撃。
何が起きたか全くわからなかった。
「っ、駿太!!」
最後に聞こえたのは、大原が自分の名前を呼ぶ声。
今まで聞いたことがないくらい、悲痛な叫びだった。
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