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12.約束と変わらぬ愛1

目が覚めたら、見知らぬ真っ白な天井が最初に見えた。  起き上がろうにも、身体は鉛のように重くて自由に動かない。全身が痛い。何かに強くぶつけた時のような痛みだ。 「……早川?」 「は、早川!起きたのか?!」  意識を取り戻した早川に気付いた神崎と岸田が、急に視界に入ってきた。二人とも見慣れない私服姿だ。どうしてだろう、今日は学校に行く途中で会ったから制服を着ていたはずだ。それに目元が真っ赤になっていた。さっきまで泣いていたのがすぐ分かる。どうして、泣いていたのだろうか。 「……っ、よかった…」  神崎が声を震わせて、静かに泣き出してしまった。綺麗な顔をした神崎は、泣き顔も絵になる。イケメンってやっぱり羨ましいな、なんて呑気なことを考えながら彼らを眺めた。 「俺、早川の父ちゃん母ちゃん呼んでくる!光、ナースコール押して!」 「…うん、わかった」  岸田も今にも泣きそうな顔をしていたが、それをぐっと堪えて病室から飛び出した。  そして、彼はすぐに早川の父母を連れて戻ってきた。二人とも自分の顔を見て泣いた。よかった、と言って恥じらうことなく泣いていた。親の泣き顔なんて、今まで見たことがあっただろうか。  朦朧としていた意識が、だんだんはっきりしていく。そして、朝のことを思い出した。  学校に行く途中で、大原たちを見つけて、走って追い付こうとした。そして、車に跳ねられたのだ。  早川がうっかり道路に飛び出したのではない。次々と人を跳ねていた暴走車が、早川に突っ込んで来たのだ。自分が跳ねられる前に、他にも人が跳ねられるのを見た。   「…っ、ナゴ、は?」  あの時、大原は自分の近くに居た。  今この部屋には見当たらない。無事なのか、事故に巻き込まれていないか心配になった。 「ナゴは今、別の病院にいる」 「病室って……怪我したの?」 「大丈夫、早川みたいに重傷じゃない」  入院もしなくていいらしいよ、と岸田が教えてくれたので、早川はホッとした。  重傷、と言われて早川は自分の状態に気付く。  身体はあちこち痛くて左腕は肘から下が包帯でぐるぐる巻き。左目の上にも大きなガーゼが貼ってあった。幸いなことに、右側の方は特に何ともない。右利きなので右手が無事で良かった、と少し安心した。大事故だった筈なのに、目に見える怪我は少ない。意外と人間って丈夫なんだ、と早川は感心した。  身体は痛いが、起き上がれない事はない。みんなが居るのに寝転がっていては申し訳ない、と上体を起こそうとすると皆んなが慌てて止めに入る。  大丈夫だと静止を振り切って起き上がろうと体を動かすと、左足の違和感に気付いた。 「いってえ…っ、ん、あれ?」  思ったように足が動かせない。  膝がおかしい。何かに邪魔されているように曲がらない。無理やり力を入れると激痛が走った。  嫌だ、と思った。  信じたくなかった。  大原と約束した秋の大会まで、あと2ヶ月しかないのに。  

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