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12.約束と変わらぬ愛2

 せっかく掴み取ったチャンスが、手からこぼれ落ちた。    自分はただの交通事故だと思っていたが、後から意図的に起こされた事件だと知った。  犯人は、大原の父親。  息子を恨んでいた父親が、息子の幸せを奪う為にあえて周りの人を巻き込んだ。  あの朝の死者は4人。早川を含めた重軽症は12人。ほとんどが3年生で、大原と面識のある生徒たちだった。  それを聞いて大原が心配になった。責任感の強い彼はきっと自分を責める。早く会いに行って、話さないと。きっと気持ちが沈んでいるから助けないと。  けれども、今の早川は歩くことすら出来ない。以前のように駆け付けて、あの大きな身体に飛びつくことも出来ない。会いに行けない。  彼も会いに来なかった。  あの事故から1週間と少しが経過したが、まだ大原には一度も会えていない。 *  足に怪我を負ってから毎日同じような夢を見る。  足が治らなくて、二度と走れなくなる夢だ。大抵途中で苦しくなって起きてしまうので、ここ最近は昼夜問わず浅い眠りを何度も繰り返していたので、時間感覚が無くなってしまった。  丁度今もその夢で目を覚ました。見る度に早川の心がすり減って行く。もういい加減、勘弁して欲しい。夢くらい、楽しいものを見せてくれたっていいじゃないか。  病室の窓から夕日が差し込んでいる。時計を見ると、17時を過ぎていた。テレビをつけてお昼のバラエティ番組を見ていたはずなのだが、いつの間にか寝てしまったらしい。テレビは夕方の報道番組を流している。  悪魔のせいでびっしょりと汗をかいてしまっていた。背中が気持ち悪い。着替えをしようと身体を起こした、その時だった。  コンコン、と病室のドアがノックされた。親は午前中のうちにお見舞いに来てくれたので、今日はもう誰も来ない予定なのに。誰かサプライズで来てくれたのだろうか。  どうぞ、とドアの方に向かって声を掛けると、ゆっくりと静かにドアを開けて、ひとりの青年が入ってきた。    黒いキャップを深めにかぶり、さらにマスクをしているせいで顔がよく見えない。  顔は見えないが、入って来た瞬間、誰かすぐに分かった。 「…!」  間違える訳がない。  ずっと会いたかった、会いに行きたかった大事な人。 「…お見舞い、遅くなってごめんな」  マスクのせいでくぐもって聞こえた声は、確かに彼のものだった。

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