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12.約束と変わらぬ愛5

 久々に夢を見ずに、ぐっすり寝られた気がする。時計を確認すると午前11時を少し回ったところ。  午前中の面会時間は終わってしまった。昨日、大原は今日も来ると言っていたが、何時にくるとは言っていなかった。いつくるのだろうか。今日もまた彼に会えると思うと、待ち遠しかった。  昨日の彼は、最後まで何か言いたそうだった。何を伝えようとしていたのかわからない。早川はその彼の様子が少し引っ掛かっていた。  さすがに寝ていたばかりでは体がガチガチに固まってしまう、と上体を起こした。すると、ベッド横のテーブルに籠に入った花束が置いてあるのを見つけた。  こんなのあったっけ、と籠を手にとって見てみる。籠に赤、黄色、オレンジ、白の花が生けられてある。    花には全く詳しくなかったが、この花はもの凄く見覚えがあった。つい最近、大原と一緒に花壇の水遣りをしていた時に見つけたあの花だ。確か、名前は。 「…マリーゴールド」 ーーなんか、駿太みたいだよな。 ーーえ、俺?なんで? ーーえーっと…元気そうなところが。  これを置いて行ったのは、きっと大原だ。  どうして起こしてくれなかったのだろうか。何か胸騒ぎがした。    花と一緒に、籠の中に四つ折りになったメモが入っている。開いてみると、お世辞にも綺麗とは言えない字が並んでいた。何度も目にしたことがある、この少し癖の強い文字。 『今までありがとう。  お元気で。  さようなら。』  完結に、たったこれだけが書かれてあるメモのような手紙。  読んだ後、自然と涙が溢れてきた。  この手紙が、全てを物語っていた。  大原は昨日、早川に何かを伝えようとしていた。結局彼の口から告げられることはなかったが、きっとこれを伝えたかったのだろう。  昨日、彼に感じた違和感を気のせいにしないで、ちゃんと向き合って話せばよかった。ちゃんと彼の口から別れを聞けていたら、止められていたかもしれない。泣いて喚いて、絶対に止めた。離れたくない、ずっと一緒に居てくれ、自分には大原が必要だと伝えられていたら、彼の中から別れという選択肢を消すことができたかもしれない。  だが、もう遅い。彼は自分の前から去ってしまった。今の早川には、彼を追いかけられる足がなかった。  まだ一緒にやりたいことがたくさんあったのに。約束もいっぱいあったのに。  来月の彼の誕生日を祝いたかった。夏休み、一緒に海に行きたかった。次の水遣り当番も一緒にやりたかった。今年こそ一緒にクリスマスを過ごしたかった。受験が終わったらおめでとうって言ってたくさん祝ってあげたかった。同じ大学に行きたかった。  どれもこれも、もう叶わない。  手に持っていた小さな紙に涙が落ちてシミを作った。  いつもは、大原が涙を止めてくれた。優しくぎゅっと抱きしめて、早川の好きな彼の大きな手で涙を拭ってくれる。  止めてくれる人がいない涙は、次々と溢れて頬を濡らす。  彼の残した小さな手紙を、くしゃくしゃになるのも構わずぎゅっと握り、肩を震わせながら静かに泣いた。  走ることを奪われ、大事な人とも引き離された。神様は、なんて残酷なことをするのだろうか。  どうか、これ以上奪わないで。

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