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13.満天の空と隣に彼が居ない世界1

 どこへ行くかは聞いていない。  どこへでもいいから、遠くへ連れて行って欲しかった。  思い出の詰まったこの町のことを思い出せなくなるくらい、遠く、遠くへ。   「…、おーい、永太郎!起きろ、着いたぞー」  賑やかで通る声に無理やり起こされた。  朝、家を出て病院に寄って貰って、そこから記憶が曖昧だった。明るかったはずの空は、いつのまにか日が沈み暗くなってしまった。  確か、空港へ行ったタイミングで一度起こされ、ずっと南の方へ行く飛行機に乗った。そして着陸のタイミングでまた起こされ、車に乗せられてまた眠った。そして今に至る。 「おーいー。おまえ大丈夫かよぉ?今日ずーっと寝てるじゃねえか。具合悪いのか?」 「…………」 「おい、鮫島。俺の運転で寝れるのが凄いってどういうことだ?めちゃくちゃ安全運転だったろ!」  軽自動車の運転席には佐藤、助手席に鮫島。後部座席にはつの大きなボストンバッグと1つの大きな段ボール、そして大原を無理やり詰め込んだようになっていて、酷い有様だ。よくこの中で寝れたなと自分でも驚くほどめちゃくちゃである。 「…ごめん、大丈夫。具合いは悪く無いよ。眠かっただけ」  正直、こんなにぐっすりと眠ったのは久々だった。  この1週間、いろいろなことがあり過ぎて気持ちが追い付かなかった。あの町から出るということが大原を安心させたのだろうか。町を出てからは周りの目を気にすることが無くなった。顔を隠さなくても安心出来る。外に出ても、お前のせいだという幻聴が聞こえなくなった。  失う物は多かったけど、きっと町を出るという選択は間違いではなかった。  後部座席のドアを開けて外に出た。  あの町より暑い。しかしカラッとしていて梅雨のジメジメした空気を感じない。そして、建物の数が圧倒的に少ない。目の前に自分たちが暮らすことになるであろう平家があり、周辺にぽつぽつと同じような平家が並んでいた。建物が少ないせいか、空が広く感じる。あの町では見えなかった小さな星々までくっきりはっきりと見えた。 「星、すごいよな」  大原を追いかけ、車を降りて来た佐藤が隣に並ぶ。鮫島は家の中に入り、中を確認しているようだ。佐藤は大原と同じように空を見上げて、大きく深呼吸をした。かなり遠くへ来たはずなのに、彼はこの場所を良く知っているように見える。 「ああ、本当に…星、すごい。こんなの初めて見た」  どこを見ても、星、星、星。  邪魔するものがない広い空。ずっと見ていると吸い込まれてしまうような気がした。    駿太にも見せたい、と言いそうになって、口を噤んだ。自分から離れると決めたくせに、なんて未練がましいのだろうか。早く、彼がいない世界に慣れなければならないのに。

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