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13.満天の空と隣に彼が居ない世界2
「空気も美味いし、空も綺麗だし、いい場所だろ!ここさ、昔、鮫島と佐野と3人で来たんだ。仕事の休みを無理やりもぎ取って、何も予定も決めないでたまたま時間が合った飛行機に乗ったらこの島に来た。弾丸旅行ってヤツかな!」
話好きな佐藤は、よく自身の昔のことを話してくれる。彼の話には、ほとんど佐野と鮫島が登場した。本当に彼らは昔から仲が良いのだ。
「俺たち、海とかあんまり見たことなかったから本当に感動してさ。いつか、また3人でここに来て、のんびり店でもやるか〜って約束したんだ。ま、佐野はまだ来れないけどな」
「…佐藤さん、今の仕事は、いいの?」
「えー、ここまで仕事の話するぅ?いいんだよ、もう俺20年も国のために働いたんだぜ。大人だってちょっとくらい休みが欲しいのよ!」
駄々をこねるように我儘を言う彼は、とてもじゃないが、20以上も歳が離れた大人に見えない。距離を感じさせないのが、きっとこの人のいい所なのだが。
佐藤と鮫島の二人は、あの事件の後すぐに休職を申し出たらしい。大原の前では見せないが、二人ともあの事件を止められなかったことをとても悔やんでいるようだった。もちろん、そんな急で勝手な休職なんて受理されるわけがない。だが、今は仕事を放り出してここにいる。きっと二人にはもう戻る気がないのだ。その証拠に、店を開こうなんて話を進めている。
「おまえが心配だから仕事辞めてついて来た訳じゃないからな?俺たちは、本当にこの島で店を開く約束をしてたんだ。だから、自分のせいで…とか思うなよ?!」
佐藤はそう言うが、半分は本当で半分は嘘だ。じゃなかったら、一緒にいる必要はないのだ。大原だってもう一人で生きていける年齢になっている。
「…なあ、永太郎。ひとつ、言っておきたいことがある」
先程までの駄々っ子の空気が一変し、ピリッとした空気が佐藤を纏う。この男と一緒にいると、こういうことが稀にある。この纏う空気の変化にはいつも驚かされる。まるで急に人格が変わってしまったようだ。
「あの事件、自分のせいだって思ってるだろう?」
図星だった。何も言えない。
「おまえは1ミリも悪く無いよ。悪いのは事件を起こした奴と、おまえたちを守らなかった俺たち大人だ」
佐藤はそう言って頭を下げた。
「守れなくてごめん。本当に、すまなかった」
守るつもりで近くに居たのに、守らなかったと彼は悔やんでいる。
佐藤は悪くない、悪いのは自分だ。普通ではない自分が、普通の幸せを願ってしまったから。
幸せになるために選んだ道が、周りの人を巻き込んで一生治らない傷付けてしまった。だから、自分のせいじゃないなんて思えない。
「おまえのせいじゃない、と言ってもたぶんおまえは受け入れられないんだろうな」
「……ごめん」
「いや、いいんだ。ただ、ひとつだけ、俺の…いや俺たちの願い、聞いてくれないか?」
佐藤という男は不思議だ。普段はどうしようもない大人に見えるが、彼の言葉には人を惹きつけて夢中にさせる力がある。
「生きろ。今はどんなに辛くても生きて、いつか必ず幸せになってくれ」
漠然とした願いだが、佐藤の目は確かに本気だった。
「ま、今はいいや!新しい生活のことを考えよう。まずアレだな…明日荷物の整理が出来たら、教習所に行こう!ここみたいな田舎じゃ、車が無いと生活できねえんだわ。運転出来るようになると便利だぜー。ほら、家の中入るぞ」
「…うん、わかった」
先ほどまでのピリついた空気が一瞬にしてどこかへ消え、いつもの陽気でお喋りな佐藤に戻った。彼に連れられ、これから3人で生活する家の中に入った。
佐藤に言われた"幸せ"について考えた時、真っ先に思い浮かぶのは、早川の姿。
彼が自分の隣で笑って、泣いて、怒って、照れて。彼に愛されて、彼を愛して。一緒に過ごした時間は、これ以上ないほど幸せだった。
大原の幸せには、いつも隣に早川がいた。
彼が隣にいない世界で、幸せになんてなれるのだろうか。
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