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14.寂しさと止まった時間3

 体育の時に見た、友達の悲しそうな顔が忘れられない。  あの二人も家族のひとりが急に居なくなって寂しいはずなのに、さも自分だけが辛いような態度を取ってしまい反省した。  気持ちがひどく沈んでいる時は、何もかもがうまくいかない。さっさと帰ろうと、ホームルームが終わってすぐ教室を出た。帰り際、神崎が何か言いたそうにしていたが、また何か余計な心配をかけてしまうかもしれないので気付かないふりをする。ごめん、と心の中で謝った。  ひとりの帰り道。やはり彼のことを思い出す。楽しくて満たされていた日々のことを思い出して、鼻の奥がつんとした。  会いたい。声を聞きたい。触れたい。彼のこと諦めきれない。今どこにいるのか。元気にしているのか。どうしても彼についての情報を知りたい。  彼の家族だった神崎も岸田も知らないと言った。あと一人だけ彼についての情報を持っていると思われる人物を、早川は知っている。でも、もしその人が何も知らなかったら万策尽きる。だから今まで怖くて聞けなかった。  ふらりとその人物がいる店の前に来てみた。彼について知っているか聞いてみたい。知らないって言われたらどうしよう。怖い。でも早川が頼れる人は、もうこの人しかいない。  思い切って、ドアに手を掛けた。  カラン、コロン、と優しいベルの音が響いた。 「いらっしゃい……ああ、君か。久しぶりだな」  中から、店主の優介が出迎えてくれた。松葉杖のせいで入り口で苦戦している早川に気付いて、ドアを開いて抑えてくれた。ありがとう、と一声かけてなんとか店の中に入った。  いつもの端っこのカウンター席に案内してくれる、と思ったが、そこには既に先客がいた。 「あれ……早川くん、か」  片手で数えるほどしか会ったことがなかったが、しっかりと覚えている。  先客は、彼のことをきっと一番よく知っている人物ーー佐野だった。  チャンスだ、と思った。  この人が彼の事を知らない訳がない。

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