60 / 108
17.夜更かしとふたりの時間2
「うん、わかったよ……あ、でもちょっと待って!」
『うん?』
「ナゴ、何か話したいことあるって言ってたよね?」
大抵いつもは早川が電話したい、と言って始めるのだが、今日は珍しく大原から誘いがあった。話したいことがある、というメッセージを昼に受信したことを思い出した。すっかり忘れて、いつものように大原に甘えて一方的に話してしまっていた。
『あ、いや、明日でもいいんだけど』
「俺が気になるから、言って!」
『うん……まだ、光と陽介には内緒にしておいて欲しいんだけど』
神崎と岸田?元同居人の名前を出した大原に、何の話か見えなくて早川は首を傾げる。
『来月、みんな卒業するだろ?』
「うん、卒業するね」
『だから、一緒に住んでる佐藤さんと鮫島さんがそっちに行って、みんなで卒業旅行に行くらしいんだ』
そっちに行く、と聞いてドキっとした。現同居人がこっちに来るなら、もしかしたら、と期待してしまう。
「ナゴも、来るの?」
『いや、ごめん。俺は…そっちに行けない』
なんだあ、と早川はがっくりと肩を落とした。
大原がこっちに来れないことなんて分かり切っていたのに。ちょっとでも期待してしまった事を後悔した。
まだ大原の中であの事件は解決していないようだ。夏にこちらに来た時もそうとう無理をしていたようで、向こうに戻ってから1週間寝込んだと聞いて驚いた記憶がある。こちらに来れるようになるには、まだまだ時間が必要だ。
『俺は行かないんだけど、5日間くらいこっちでひとりになるから……』
「うんうん」
『だから……もし良かったら、こっちに遊びに来ないか?』
「うんうん……えっ?」
遊びに行く、遊びに、行く。ということは、大原に会える、ということなのだろうか。
『あっでも、遠いし、無理なら無理で……』
「行く!行きたい!!」
大原が来れないなら、自分から会いに行けばいいのだ。なぜ、こんな簡単なことに直ぐ気付けなかったのだろうか。
まだ日付も何も、行くことも決定していないのに。大原に会えるかもしれないというだけでドキドキして、わくわくが止まらない。
『……、……って、駿太聞いてる?』
「あっ、ごめん」
『いいよ、明日また話そう。おやすみ』
「うん…おやすみ」
ガチャリ、と電話が切れた音がした。いつも電話を切った瞬間はちょっとだけ寂しい。大原は最後のあたり、早川が眠くて話を聞いていないと思って電話を切ったように感じたが、それは全くの見当違い。眠気なんて吹っ飛んでしまった。もう卒業後に会いに行くとこしか考えてない。それしか考えられないほどわくわくしていた。
「ああー………早く卒業したいー…」
枕に顔を埋めて大きく息を吐いた。
そういえば彼はどこに住んでいるんだっけ。確か沖縄の本島の、もっとずっと、海の向こう。
ともだちにシェアしよう!