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18.広い海と南の島2

*  一応、直行便は出ている。でも、行きは安さを重視して、よく聞く格安航空というものを使ってみた。だから一回乗り換えが必要だった。  飛行機の乗り換えなんて初めてだ。国内旅行なのに。修学旅行で行ったので、沖縄に行くのは2回目。でも遠くにひとりで行くのも初めてだし、ひとりで飛行機に乗るのも初めて。  飛行機に乗って2時間経って那覇空港に着いた。乗り換えなので少し時間を潰して、また別の飛行機に乗って1時間。飛行機の窓から目的地の石垣島が見えてきた。  家を出たのは昼の11時頃だったのに、もう夕方の5時。日が傾き始めている。そう考えると、遠くに来たんだと実感が湧いて来る。  もう少しで到着する。もうすぐやっと、やっと彼に会える。  飛行機は着陸態勢に入った。陸が近づいて来る。もうすぐ会える嬉しさで頬が緩むのを、きゅっと唇を噛んで一生懸命抑えた。どんな顔して会うのが正解なのだろうか。  予定より10分遅れの到着。待たせてしまったかもしれない。4泊5日も滞在するのに、持ってきた荷物はリュックひとつに収まった。そのおかげで、レーンを流れてくる荷物を待つ必要が無かった。なので、到着出口から1番に飛び出した。オーリートーリー、なんて慣れない言葉が聞こえたけど、一体どんな意味なのだろうか。  あたりをキョロキョロと見回して、彼の姿を探す。一際背が高い青年は、あっさりと見つかった。帽子は被っていなかったので、顔までしっかり見えた。  彼も自分に気付いてくれたようで、小さく手を振った。 「なーごぉーーー!!」  大きな声で名前を呼んで、走って彼に正面から飛び付いた。わっ、と彼は驚いた様子だったが、しっかりと受け止めてくれた。 「っ、駿太!めっちゃ見られてる…」 「えっ、あ、ご、ごめん!」  姿を見て何も考えずに飛び付いてしまったが、チラチラと視線を感じる。空港で若い男同士がベッタリとくっ付いている様子は、不自然極まりない。大原に指摘され、慌てて離れた。  離れたが、もう遅い。周りの人達の視線はしっかり自分たちに向けられていた。「仲良しだね」「兄弟かな?」なんてひそひそ話す声が聞こえる。仲良しではあるが兄弟ではない。  一瞬でこの小さな空港の中で注目の的になってしまったようだ。居た堪れない気持ちになる。 「駿太、こっち。行こう」 「あっ、うん!」  せっかく離れたのに、今度は大原が早川の手を握った。周囲の視線に耐えられなくなったなったのか、大原はそのまま早川の手を引いて空港の外へ出た。  外は別に暑くないのに、握られた手はなんだかとても熱かった。  手を繋いだまま駐車場に来て、黒い乗用車の前まで来て大原は立ち止まった。  建物の中ほどではないが、人通りが全く無いわけではない。けれど、手は繋いだままだった。いくら知らない土地で自分のことをしっている人が居ないと分かっていても、人目があるところだと少し恥ずかしい。 「な、ナゴ…手を…」 「えっ……ああ!ごめん!」  パッと慌てて大原が手を離した。無意識だったようだ。その反応に、何故かちょっと嬉しくなってしまう。 「車、これだから。後ろに荷物入れて」 「うん。ってか、ナゴ運転出来るんだね!」 「こっちは車がないと生活できないからな。免許取った」 「ふーん。じゃ、お願いしまーす」    車の鍵を開けてくれたので、言われた通りに後部座席に背負っていたリュックを投げ入れ、そのまま自分も乗り込んだ。  ドアを閉めようとしたところで、不服そうな顔をした大原に止められた。 「……普通こういう時って、助手席だろ」 「えっ、あっそっか!ご、ごめん」  少し拗ねたような彼の顔に、胸がきゅんと音を立てた。ごく稀に見せるその顔は、昔と変わっていない。口角が上がりそうになるのをぐっと抑えた。  車なんて親が運転するものくらいしか乗ったことがない。家族の車は後部座席が早川の定位置なので、その感覚で乗ってしまった。  慌てて一旦車から降りて助手席に座ると、よし、と満足した様子で車を発進させた。  空港から出た時には、もう当たりは暗くなり始めていた。    横を向くと、大原の横顔。吊り気味の目元、すっと通った鼻、薄い唇。スラっと長い腕と、ハンドルをる握る大きな手。  ちょっと大人になったが、記憶にある大事な人と全く一緒。大事な人がすぐ隣にいる事の嬉しさを噛み締める。 「……そんな見られると、照れるんだけど」 「ええっ、気付いてたの?!」 「うん、まあ…」  運転してるし、暗くなってきたからバレないだろうと思って見ていたのに。大原にはしっかりバレていたようだ。照れ臭いのか、ほんのりと顔が赤い。彼がそんな顔をするせいでこっちまで恥ずかしくなってきて、ふいと顔を逸らした。  赤信号で車が止まる。何故こんな所に信号が、と免許を持っていない早川が思うくらい車通りが少ない。後ろにも対向車線にも車が居ない。他の車のライトも街灯もないので、辺りは真っ暗だ。  ふと、膝の上に置いた早川の右手に、大原の左手が重ねられた。驚いて顔をあげると、大原は柔らかい眼差しで早川の事を見つめていた。  彼の愛情が籠もったような甘ったるい視線に、ドキドキと胸がうるさいくらいに音を立てる。 「……会いたかった」  眉をハの字にした、困ったような不器用な笑顔で大原は行った。  ああ、この顔が見たかった。嘘偽りない幸せを感じた時、大原はこの顔をする。この顔が見れると、早川も幸せだった。 「うん、俺も会いたかった」  手を添えられただけでは物足りなくて、指を絡めるように握り直した。  電話ではあんなにたくさん話せたのに、いざ本人を目の前にすると、うまく言葉が出てこない。ドキドキとうるさい心臓の音が、さらにバグバクと大きな音を立て始める。  初日からこんな感じで、自分の心臓は5日間もつのだろうかとちょっと心配になった。

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