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18.広い海と南の島3

「駿太、疲れてる?」 「ううん、疲れてないよ。なんで?」 「移動長かったし、静かだから」  あまり喋らないことを心配されているらしい。大原は早川が疲れているから喋らないと勘違いしているようだ。 「ごめん、会うの久しぶりだから…話したいこといっぱいあるのに、何から話したらいいのか分かんなくて」  本当はちょっと緊張している、という理由もあるけど、それは恥ずかしいから言わないでおく。  そんなことか、と大原が安心した息を吐いた。 「疲れてないなら、飯食ってから帰ろうと思ってるんだけど、それでいい?」 「うん、いいよ」 「何か食いたいものある?」 「うーん、食べたいものかあ…」  何だろう、と早川は考える。せっかく沖縄に来たのだから、それなりに有名なものが食べたい。ソーキそばや海ぶどう、サトウキビなど。けれども、それらは食べ盛りの自分たちの夕食としてはちょっと物足りない。昼とかおやつだったら丁度いいのに。 「…焼肉でもいいか?」  早川が悩んでいると、大原から提案があった。沖縄来たのに焼肉か、なんて言われるかもしれないけど、悪くない。焼肉は早川も大好きだ。  忘れていたが、大原はかなりの大食らい。夜はがっつり食べたいのだろう。早川も同意見だ。 「焼肉って聞いたら食べたくなって来たー…焼肉にしよう。沖縄っぽくないけど」 「石垣牛って言うのがあるから、それで沖縄っぽくなるだろ」 「あー、いいね!よし、決まり。ナゴ連れてって!」  さっきまでそんなに腹は減っていなかったのに、食べ物の話をすると思い出したように空腹が襲いかかる。車内の時計を見ると、夕食にはちょうど良い時間になっていた。 「実はここ最近、ずっと焼肉行きたいと思ってたんだ……今日は食うぞ」 「一緒に住んでる人たちと行かないの?」 「たまに行くけど、あの二人酒ばっか飲んでそんなに食わないから。何か、俺一人でめちゃくちゃ食ってるのも悪いなあ…って」 「ああー…うちも家族で行くと父さんも母さんもそんな感じだ。大人になるとそうなのかな?」 「酒、飲まないから分かんないな」  だんだんと、二人きりの車内の空気にも慣れ、話が弾んできた。 「卒業式してからさ、岸田と神崎と焼肉行ったんだ。あんまり美味くないとこ」 「…わざわざ美味くないところ行ったのか?」 「だって、あの駅の周り焼肉ないじゃん。たぶんナゴとも一緒に行った、駅前の安くてデザートとかめっちゃあるとこ!」 「……あの、謎のチョコフォンデュタワーあるところ?」 「そうそう!そこ!」 「確かに、高校生が行けるのはアレしか無いな…もう一軒あるけど、普通に高いし」 「え、もう一軒あったの?知らなかったー…」 「分かりにくいところにあったからな。あ、もう直ぐ着く」  どうやらいつの間にか目的地周辺らしい。空港からの道のりは山が多くて、島だというのにまだ海を見ていない。山を抜けると町中に入ってしまった。 「そういえば、海って見えないの?」 「ん?もうすぐ見えると思うけど……あ、ほら、あっちの方」  町がだんだん栄えていき、船がたくさん停まっている港が見えてきた。ビーチを予想していたので、想像とは違ったがやっと海が見えて、少しテンションが上がって来た。しかしもう暗くなってしまったので、街灯や町の明かりで照らされているところしか見えない。 「んー、暗くて海の綺麗さとかよく分かんないね」 「また明日、明るくなってから見に来よう」 「うん、そうだね」  どうせ5日間も滞在するのだ。最後には飽きたって言うほど見ることになるかもしれない。  乗船場らしき場所の近くのパーキングに車を停める。ここからは歩いて行くらしい。  車を降りると、海の匂いがした。さらさらと静かに潮風が吹いている。こんなに海が近いのに、髪や肌がベタベタしないのがとても不思議だ。 「行こう」 「うん!」  港付近は空港の周りと違って人の通りが多かった。だから、さっきのように手を繋いで歩くことは出来なかった。分かってはいるけど、それがほんの少しだけ寂しくて。前を明るく背中に戯れるように飛びついた。  これなら、周りからは巫山戯ているだけに見えるはず。男同士でくっ付いてはいるけど、変な目で見られることはない。

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