64 / 108

18.広い海と南の島4

*  ふたりで食事して、ちょっと町を見つつ散歩してから車に戻った。大原たちが働いている店の場所も教えてもらった。もちろん、今日は休業中だが。  彼らの住む家は、少し港町から外れた場所にあった。早川の住む地域では見たことがないような平家。庭も広くて車庫がある。既に一台、大原が乗っていたものより高そうな車が停まっていた。きっと同居人のものだろう。隣の家同士も距離があって、何か不思議な感じがした。 「おおー、何か沖縄って感じのする家」 「…俺も初めて見たときそんな風に思ったな。どうぞ、入って」 「お邪魔しまーす!」  リビングと大原の部屋を案内してもらった。他にもふた部屋あるように見えたが、きっと同居人たちの部屋なのだろう。  大原の部屋は相変わらず簡素な部屋だ。前に彼が住んでいた部屋と変わらず、ベッドと机とタンスという必要最低限の物しか無い。 「相変わらず、部屋が殺風景だよねー…」 「そうか?普通だろ」  高校生の頃はまだ教科書や参考書など本類があったが、今はそれらも無い。もちろん、読書するための本も漫画も無い。一体何をして暇を潰しているのだろう。 「ナゴ、暇なとき何してるの?」 「うーん、特に何も……あ、最近ゲーム買ったんだ」 「えっ!ゲーム買ったの?!」  そういえば、うちに来るたびに楽しそうにゲームしていたことを思い出す。ようやく自分の物を手に入れたか、と何故か少し嬉しくなってしまう。 「わあー、ナゴがついにゲーム買ったのか……後で一緒にやろうよ!」 「そうだな。でもその前に、風呂入ってこいよ。いい加減疲れただろ?」  もう夜遅いし、と大原に言われて時計を見ると、もうすでに22時を回っていた。楽しい時間はあっという間に過ぎて行ってしまう。 「うーん、そうだなあ…そうしよっかなあ。あ、部屋着忘れたんだ。ナゴ貸して!」 「……サイズあれだけど、いいなら」 「いいよ!着れれば何でもいいの!」  大原の着ている物のサイズが自分に合わないことなんて分かっている。そんなことはどうでもいいのだ。  大原がタンスの中から適当にTシャツとジャージの短パンを出して、それらを渡して来た。  お言葉に甘えて、一番風呂を頂くことにする。準備してくる、と言って大原は部屋から出て行ってしまった。  一緒に入ろう、と言おうとしたが辞めてしまった。半年以上会ってなかったせいか、さすがに照れくさかった。まだ1日目だし、また機会は巡って来るはず。  さほど時間が経たないうちに、風呂の準備を終えた大原が戻ってきたので早川は風呂に入る。早川が出ると大原はリビングに居て、大きなソファに座りながらテレビを見ていた。 「風呂、空いたよ」  声を掛けて彼の隣に座る。 「髪、乾かして来なかったのか?ドライヤーあっただろ」 「えーいいよ、いつも自然乾燥だし」 「……乾かしてやる。ちょっと待ってて」  そう言って大原はバスルームへドライヤーを取りに行ってしまった。  たまに、彼はすごく世話を焼きたがる時がある。元からそういう性分なのだろう。彼に世話を焼かれるのは嫌いじゃ無い、というかむしろ好きなので、こういう時は彼の好きなようにさせる。  暫くするとドライヤーを持った大原が戻ってきた。ソファに座る早川の背後に立ち、ドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かし始める。  優しく撫でるように頭や髪に触れる彼の手が心地良くて、何だかちょっとむず痒い。まだ一緒に高校に通っていた頃、よく頭を撫でられていたことを思い出した。あの時の感覚に少し似ている。 「…よし、乾いたな」  短い髪はすぐに乾いてしまうので、この心地よい時間もすぐに終わってしまった。大原は満足しているように見えるが、早川は少しだけ名残惜しい。 「俺も風呂入ってくるから、ゆっくりしてて」 「うん、いってらっしゃーい」 「あ、もし喉が渇いたら、冷蔵庫の中の物勝手に飲んでいいから。コップは…あっちの棚にあるから自由に使って」 「はーい、わかったー」  そう言うと、大原はさっさとバスルームの方へ行ってしまう。ゆっくりしてて、と言われてもテレビを見るくらいしかやることが無い。さっきまで大原が見ていた夜のニュースが流れている。  そういえば、喉が乾いたなと感じた。冷蔵庫の中の物は自由に飲んでいいと言われたので、その言葉に甘えることにして冷蔵庫を開けてみる。  中には大きいペットボトルのお茶と沢山の缶。ほとんどがビールだったが、いくつかそうで無い物がある。"沖縄限定シークワーサー"と書かれた缶を見つけた。限定という文字に惹かれてそれを手に取る。  缶を開けると、プシュッと炭酸の抜ける音がした。普通の果実のジュースだと思っていたが炭酸のジュースのようだ。ひと口飲んでみると、程よい酸っぱさと甘さのスッキリとした味がした。けど、後味がちょっと苦いような、舌が痺れるような変わった味がした。  ジュースを飲みながらテレビを見ていると、身体がポカポカしてきて強烈な眠気が襲って来た。おかしい、さっきまで眠気なんて全く感じていなかったはずだ。これでは大原が戻る前に寝てしまうかもしれない。  まだ夜にやりたいことがたくさんあるのに。話をしたりゲームしたり、くっ付いたりキスしたり、触れ合ったり一緒に寝たり。もしかしたらソウイウ事になるかもしれない、とほんの少しだけ期待してちゃんと身体を念入りに洗って来た。それなのに。  もう限界だ。ゴシゴシと眠たい目を擦る。溢してはいけないと思い、ソファの前にあるローテーブルに半分以上飲んでしまったジュースの缶を置いた。眠気に逆えず、背もたれに身体を預け目を瞑った。  

ともだちにシェアしよう!