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18.広い海と南の島5
目を瞑ってウトウトと船を漕いでいると、バタンと扉が開く音とこちらに近づく足音が聞こえる。大原が戻ってきたのだろうか、と思って重たい目蓋を無理やり開いた。
「駿太、もう眠い?」
そう問いかけながら大原が隣に座る。
「うーん…まだ起きていたいんだけどなあ……」
眠気に任せて、甘えるように、隣に座る彼の肩に寄り掛かる。ぴくり、と驚いたように少しだけ彼の肩が跳ねた。
何だかいい雰囲気だ。不思議と今日は全く照れ臭くない。この勢いに任せて、もっと擦り寄ってみたり、手を握ったりしてみる。
ちらっと彼の様子を伺うと、照れているのだろうか、無言で少し顔を赤くしていた。ああ、なんて可愛い横顔だろうか。きっとこの180センチを軽く超える大男を可愛いなんて言うのは自分だけ。こっちをみて欲しくて、さらに甘えるように名前を呼んだ。
「ねえ、なごー」
「ん?」
名前に反応して向けた無防備な唇に、ちゅっと音を立てて触れるだけのキスをした。
「……っ!」
「えへへ、なご顔真っ赤だよ」
「駿太も、顔赤いけど……なんで?」
「えー?嘘だあ、俺照れてないもん」
彼に言われて気付く。確かに顔の周りが熱い。不審に思った大原が、ぺたぺたと早川の頬に触れる。自分の体温より少し低い大原の手が気持ち良くて頬をすり寄せる。
「んー…冷たくて気持ちいいー…」
「…大丈夫か?なんか、さっきから変だけど」
「うーん、なんか超眠くて、頭フワフワする…」
ゆっくりと目蓋が降りてくる感覚に耐えられなくなり、早川は大原の足を枕にしながらソファに横たわる。ゴツゴツと骨張っていて、固い膝枕。想像していたのと何か違う。
甘えてくれるのはもちろん嬉しいが、急にこんな態度を取るようになってしまった早川に、大原はさすがに違和感を覚えた。ふにゃふにゃとしていて、まるで酔っ払いのようだ。
まさか、と思って早川が飲んでいた缶のラベルを確認する。そこには大きな文字で"沖縄限定シークワーサーサワー"。彼がジュースだと思って飲んでいたのは、ちゃんとした酒だった。缶を持ち上げてみると、中身はもう殆ど入っていなかった。
とにかく、水を飲ませないと。自分の膝の上で動かなくなってしまった早川を心配して声を掛ける。
「駿太、大丈夫か?気持ち悪くないか?」
「んー…………」
「……駿太?」
「…………」
声を掛けても返ってくるのは気持ち良さそうな寝息のみ。さらさらと頭を撫でても反応がない。完全に眠ってしまったようだ。
特に顔色が悪いわけでもなく、気持ちよさそうに寝ているので悪酔いした訳ではなさそうだと安心した。
窮屈なソファの上で寝かせるのもかわいそうだ。彼の背中を支え膝裏に腕を入れて、起こさないようにそっと抱き上げる。
そのまま彼を自分の部屋に運び、ベッドの上にそっと降ろして布団を掛ける。
幸せそうに眠る彼の隣に寝ようとして、辞めた。同じベッドで寝たことがない訳ではないが、今日はなんだか照れくさい。久しぶりに会ったこと、そして昼に優介に電話で言われたことを、どこか気にしてしまっているのだろうか。こんな気持ちでは朝まで眠れそうにない。
「…おやすみ、駿太」
そっと彼の頭を撫でて、囁くように声を掛けた。
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