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19.触れる体温と重なる心音2

 * 「おおー!すごーーい!」 海が見たい、と言った早川のために大原が最初に連れてきてくれたのは展望台だった。島の真ん中より少し北に位置するところにある。想像上の展望台とは少し違って、高台に休憩スペースがあるような簡素なものだった。  簡素な展望台なのに、そこから見える景色は思わず声を上げてしまうほど、凄かった。見渡す限り海。白い砂浜に穏やかに押し寄せるエメラルドグリーン。丁度太陽が高い位置にある時間帯で天気も良かったので、水面に光が反射してキラキラしていた。  スマートフォンで写真を撮ってみても、キラキラは綺麗に映らなかった。 「あれ、うまく写らないなあ。キラキラしてんの撮りたいのに」 「反射した光は、さすがに写らないんじゃないか?」 「うーん、そっかあ……あ、ナゴ一緒に写真撮ろうよ!」  キラキラした水面は諦めた。キラキラしようがしまいが、景色が綺麗なことに変わりは無いのだ。せっかくここまで連れてきてくれたのだから、どうせなら大原と一緒に写真が撮りたいと思った。実は二人で一緒に撮った写真は、スマートフォンのフォルダの中に、まだ一枚も存在していない。 「ナゴ、もっとこっち寄って!」 「こ、こうか?」  インカメラにして、ああでもないこうでもないと画面を見ながら角度を調整している姿は、不慣れ丸出しである。  ふと、近くにいた観光客らしい老夫婦が、仲良しだねと微笑ましそうにこちらを見ているのに気付いた。他にも、自分たちよりも少し年上の女性グループがこちらを見て、可愛いだの微笑ましいだの、そんなことを言っているのが聞こえた。  ただの仲良し、ではないのだ。それ以上の関係。男同士、普通とは言えない関係。何も知らない人からは、可愛くて微笑ましく見えるかもしれない。本当のことを知ったら、普通ではないこの恋を知ったら。きっとあの人たちも離れていくのだ。  高校生だった時、岸田も神崎も、大原と早川の関係を全く躊躇わずに受け入れてくれていたから忘れかけていたが、普通ではないのだ。彼らだけじゃない。岸田の兄弟である優介も優菜も、保護者である佐野も。今までは環境に恵まれすぎていた。大学生になってからは、そうではない。その事に最近、早川は不安を覚えていた。 「…駿太?どうした、疲れたか?」 「あ、ごめん。大丈夫だよ」 「そうか。でも、ちょっと休憩しようか。下に喫茶みたいなのがあったから、そこで休もう」  ほら、行こう。と大原は当たり前のように手を差し出してきた。うん、と頷いてその手を握ると、先ほどの女性グループの方から黄色い声が上がったのが聞こえた。  嫌悪感は無さそうだ、と思ってもやはり気になってしまって、ちらりと彼女たちの方を見てしまった。 「大丈夫だから、気にするなって」  人の目を気にしている、と大原から心配されていたようだ。だが、実際はさほど気にしていない。  ここに来て大原に会うまで、そういう事について少し悩んでいたが、今はもう大丈夫だ。  大原に会ったら、そんな些細なことはどうでも良くなったのだ。  誰が何と言おうと、他人からどんな目で見られようと、大原と一緒に居たいという気持ちは変わらない。この気持ちは変えようがないのだ。 「うん、気にしてない。大丈夫」  幸い、自分たちには味方が多い。普通じゃなくても、幸せを願ってくれる人がひとりでも居たら、それで充分なのだ。

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