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19.触れる体温と重なる心音3

* 「あー疲れた、でも楽しかったー!」  あの後もドライブして、浜辺を散歩したり船を見に行ったり1日遊んで帰宅した。食事も外で済ませ、後は寝るだけ。  早川は大原のベッドに横になり、我が物顔でごろごろと寛いでいる。大原はベッドに腰掛け、なにやら熱心にスマートフォンを見ていた。 「寝ないの?」 「ん?もうそんな時間か」  今日は遊びに行って少し疲れていたが、特に眠い訳ではない。ちょっと構って欲しくて声を掛けただけ。 「そろそろ、寝るか」  早川が寝たいと思っている、と勘違いした様子の大原。腰掛けていたベッドから立ち上がり部屋から出て行こうとする。  昨日もそうだったが、なぜか彼は一緒に寝ようとしない。早川は同じベッドで寝たいと思っているのだが、彼はそうではないのだろうか。 「一緒に寝ないの?」  思い切って尋ねてみると、大原は照れ臭そうに視線を逸らした。彼のその表情でなんとなく察することが出来てしまう。なんだ、照れているだけか、と早川は安心した。 「俺、一緒に寝たい」 ベッドの端っこに寄って、空いたスペースをポンポンと叩く。こっちにおいでと誘ってやると、やっと彼の首が縦に動いた。  大原の部屋にあるのはごく普通のシングルベッド。身体が大きな大原と、背は高くないがそれなりにしっかりとした身体付きの早川が並んで横になるには狭すぎる。ぴったりと肩と肩が触れ合った。初めて一緒に寝る訳じゃない癖に、触れている肩が気になって仕方がない。このような関係になって初めて一緒に寝た時も、今と同じようなことを感じたなと、昔のことを思い出して懐かしくなった。  あれは確か2年ほど前。自分の部屋のベッドの上で彼に触れて、触れられて、一緒に眠った。とんでもなく前のことのように感じる。10代の彼らにとって2年と言う月日は長い。互いに離れて距離をとって、触れることが出来なかった時間は長かった。長すぎた。やっと今触れることが出来た。ほんの少しだったが、彼の体温に触れたせいでもっと欲しくなった。  布団の中で大原の手を探して、指を絡ませ合うように手を握る。彼は驚いたようで、ぴくりと少し肩を震わせてから早川の顔をじっと見た。   「……もっとくっ付いてもいいか?」  彼は遠慮がちにそう言った。断る理由なんて全くなかったし、早川もそうしたかった。もっと大原とくっ付いて、彼の体温を感じたかった。彼に触れたい気持ちが溢れ出て収まらない。  こくりと早川が頷くと、大原はホッとしたような顔をした。空いている手を早川の背中に回してぎゅっと抱きしめる。  大原の胸に顔を押し付け、すんと小さく息を吸うと彼の匂いがする。早川は身体に熱が溜まるのを感じた。物足りなくて大きく息を吸うと、彼の匂いでいっぱいになった。たまらない、もう駄目だ。もっと、もっと欲しい。触って、触られて、もっと近くで感じたい。身体も顔も熱くなって彼の腕の中で身動いでいると、異変に気付いた大原がどうした、と声を掛けてきた。   「……駿太?」  抱きしめた腕を解いて、少し離れて顔を覗き込まれた。  早川は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに目を逸らす。もぞもぞと身動いでいる姿を見て、大原は小さく笑った。早川が何が欲しいのか、どうしたいのか、どうして欲しいのか、全て察してしまったようだ。   「……駿太、触ってもいい?」  いちいち全部聞くのはずるい、と早川は思う。  しかし、ここで頷かないなんて選択肢は、早川の中に存在していなかった。

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