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20.長い昼寝とふたりで見る星1

 カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました。すでに日は高く登っていて、これは朝という感じではない日の差し方だった。きっともう昼だ。  時間を知りたくてスマートフォンを探す。どこに置いたか忘れてしまった。いつもの自分の部屋だったら、ベッドヘッドに充電器に刺しっぱなしのスマートフォンがあるのだが、今は違う。自分の部屋ではないのだ。  身体を起こそうとすると、下半身に鈍い痛みが走る。それと同時に、口では言えないとんでもなく恥ずかしいところに、今まで感じた事のないような違和感。自身の身体に残る情事の痕が、早川に昨晩のことをしっかりと思い出させた。    念願かなって、大原とセックスをした。最後までシたのだ。  早川はずっとしたかったのだ。大好きな人と繋がりたいと思うのは自然の通り。しかし、怖かった。初めてだし男同士だし。不安いっぱいの早川を見て大原は自ら手を出そうとしなかった。けれども、昨晩、ついに。  誰にも見られたことないところを見られたし、触られた。変な声がいっぱい出たし、きっと情けない顔をしていた。セックスとはこんなにも恥ずかしいことだらけなのか。恥ずかしさで死にそうだ。今は居ないが、どんな顔して大原のことを見ればいいかわからない。  というか、大原はどこに行ったのだろうか。彼が寝ていたはずの場所に体温は残っていない。今更気付いたが、ローションや精液でぐちゃぐちゃになっていたシーツは新しいものに取り替えられているし、早川の身体も綺麗になっていた。昨晩はあの後すぐに寝てしまったから、全部大原がやってくれたのだろうか。  そういうところを含め、大原は優しい。昨晩の行為中ですら優しい。優しくしてくれたおかげで、身体にそんなに負担は掛からなかった。  そんな優しくて気遣いが出来る大原なのに、初夜の次の日の朝、隣に居ないなんて。  パタパタと足音や生活音が聞こえるから家にはいるようだ。自分が起きるまで待っててくれてもいいじゃないか、と少しわがままを言いたくなったが、隣に居たら居たで、照れるしどんな顔をして会えばいいか分からないからこれでよかった、と思った。  ふと、ひとりで考え事に耽っていたら、パタパタと忙しなく動いていた足音が近づいて来た。  やばい、どうしよう。まだどんな顔をして会えばいいかわからない。  ガチャリ。 「…駿太?」 「…………」  布団に包まって寝たフリすることに決めた。まだ心の準備が出来ていない。  大原は部屋に入ってきて、早川の眠るベッドに腰かけた。 「起きてるだろ?おはよう、駿太」 「うっ……、げほっ…、お、おはよー…」  思った以上にカラカラのひどい声が出て、早川は咳払いする。布団に包まって頭だけ出した早川の姿を、大原が愛おしそうな顔で見つめる。やっぱり照れ臭くて、身体がムズムズした。  大原の大きな手が、早川の頭を撫でる。さらさら、髪を溶かすように優しく、優しく撫でる。 「身体、辛くないか?」 「うん、大丈夫。ちょっと変な感じするだけ」 「喉渇いただろ?水、持ってきたから飲んで」 「あ、ありがとう…」  ふと、頭を撫でていた大原の手が頬を撫で、首筋に触れた。ぴくり、と身体が跳ねる。ああ、これは良くない。 「朝飯、というかもう昼飯なんだけど、食えるか?食えるなら何か適当に作るけど……駿太?」  名前を呼ばれると、駄目だった。昨晩の情事中の切羽詰まった声、早川を宥めるための蕩けるような優しい声、安心させるために呼ぶ名前。全部、ぜんぶ思い出す。  布団の中に籠城したまま動からない早川を不安に思ったのか、大原が早川の顔を見ようとして布団をめくった。  心配そうに見つめる大原と、ばっちり目が合った。ぼっ、と顔から火が出るのではというほど熱が集まった。 「やっぱり、身体痛いのか?ごめんな、昨日無理させたから…」  悲しそうな顔をする大原に、早川はブンブンと首を横に振る。  もう何がなんだかわからない、と首を傾げた大原に、早川は顔を赤くしたまま消え入りそうな声で言った。 「…た、勃っちゃった…………」  恥ずかしい。言わなくてもバレないのに、何で言ってしまったのだろうか。触って欲しいから、それとも、昨日の多幸感をまた感じたかったからか。  大原はというと、少し驚いた顔をしていたが、すぐにあの幸せそうな顔をした。腰かけていたベッドに乗り上げ、早川に覆いかぶさると、額に触れるだけのキスを落とする。  なんだ、と早川が大原を見つめると、少し顔を赤くした大原とばっちり目があった。 「駿太」 「な、なに?」  雰囲気からして、彼がなにを言いたいのかすぐに推測できた。  昨晩は、早川から誘った。優しくて早川のことを尊重してくれる彼が奥手なのも知っている。でもやっぱり、彼からも求められたい。だって、好きなのだから。 「……いいか?」  何が、なんて言わなくたって分かる。  早川はがこくりと小さく頷くと、彼らは一緒にシーツの波へ沈んでいった。

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