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20.長い昼寝とふたりで見る星4
「ねえ、ナゴ」
「ん?」
「俺が何で看護系の学校に行くことにしたか、わかる?」
急な問いかけに、大原は考える素振りを見せた。高校卒業後、看護師になるための学校に行くとだけ大原に伝えたが、肝心な理由は伝えていない。
「怪我して入院を経験したから、だと思ってたけど…」
「うん、半分正解。もうひとつ、理由があるんだ」
本当はもうひとつの理由を、大原に話すつもりは無かった。
これを聞いたら彼は、きっと悩んで、また変な勘違いをして自分を責めてしまうだろう。けれども、隠し事は無しにしたい。本当は、全部知っていて欲しかった。
「大原と一緒に居るためだよ」
「え?」
「医療に関わる仕事なら、何処でも出来るから」
大原が目を伏せた。早川が何を言いたいか、全て察してくれたようだ。
医療はどこでも必要とされている。この島にも、あの街にも仕事があって働いていける。
大原はあの街に戻りたがっているが、戻れるか分からない。戻るには、彼が変わらなければならない。自分を許せるようならなければならない。
「でも俺は、いつかあの街に……」
「本当に戻れるの?」
「……っ、」
大原が断言出来ないのは分かっているのに。言葉に詰まった彼をみて、今のは少し意地悪だったなと反省した。
「みんな、ナゴが帰れるようになったらいいと思ってる。もちろん、俺だってそう思ってるよ。でも、でもね、それがナゴにとってすごく辛いことなら……無理しなくていいんじゃないかって、思うんだ」
早川は、大原があの街に戻って来ることが重要だとは思っていない。もし戻れなかったら、自分が大原の元に行けばいいと思っている。大原のためにはならないが、それより彼が無理をして、辛くて苦しい思いをする方が嫌だ。そんな思いをするくらいなら、変わらなくていい。自分が彼に合わせれば問題ないのだ。
「ナゴが辛いなら、俺がこっちに来るよ」
彼と一緒に居られるなら、何処でも行ける。友達とも家族とも離れて、どこにだって行く覚悟を決めている。
「ナゴは、どうしてほしい?」
「…俺?」
「うん、俺にこっちに来て欲しい?それとも、待ってて欲しい?」
答えを急かすのは意地悪だ。まだ大学の入学式もしていないのに、未来のことを決めさせようとするのは、今の彼にとって酷な事だろう。 早川は未来に対する大原の言葉が欲しかった。中には果たされることが無かったものもあるが、以前は二人でたくさん未来の約束をしてきた。けれども、今はそのストックが尽きた。
未来の約束が欲しい。その時が来るまで、離れていても一緒だという確証が欲しい。気持ちが離れないという証明が欲しい。
「俺は…………」
ざあ、と一際大きな波が砂浜に押し寄せ、大原の言葉をかき消した。
早川は大原をじっと見つめ、答えを待つ。刺さるような視線に耐えられなくなった大原は、視線を逸らしてしまった。
「…………ごめん」
未来の約束は出来なかった。
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