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20.長い昼寝とふたりで見る星6
そこそこの大きさのダンボールに、いくつかの郵便物を乗せたものを持って大原は戻ってきた。
「なにこれ?」
「さあ…佐藤さんからだから、旅行の荷物とかお土産だと思うけど」
忘れていたが、大原の家族たちは、早川の友人でもある岸田と神崎の卒業を祝う旅行中だ。そのお土産を直接送ってきたのだろう。
どさり、とダンボールを床に下ろした衝撃で上に乗せていた郵便物がひとつだけ落ちてしまった。今時珍しく、手書きで住所や名前が書かれてある安っぽい茶封筒だった。
「ナゴ、一個落ちちゃった…よ……」
茶封筒を拾って、大原に渡そうとして気付いた。宛先は大原の名前になっていて、差出人の欄には、とある拘置所の住所とニュースやワイドショーで見たことがある人物の名前。
「これって……」
「うん、あの人から。たまに手紙が来るんだ」
やはり、彼の父親からだった。
「たまにって、これまでも何回か来たの?」
「何度も来たよ。でも、一度も読んでない」
彼らの親子関係が普通でないことを、早川は知っている。でも、もし彼の父親に少しでも親としての心が残っていたら。良心が残っていたら。そう考えると、本当に読まなくていいのかと聞きたくなってしまう。
「……今更、何なんだって感じだよな」
早川から封筒を受け取って、大原はそれを読まずにゴミ箱へ捨てた。
彼の中の色々な問題が片付くまで、きっと大原はあの人からの手紙を読めないのだろうと早川は思う。つまり、あの手紙を読めるようになったら、大原は前に進む事が出来る。
けれども、あの手紙がまた大原を傷つけるなら、そんなものは読まなくていいし、前に進めなくたっていい。
好きな人に、これ以上傷付いて欲しくない。
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