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21.最後の夜と大事な借り物3
*
最後の朝は、意外とあっさりしていた。
「……駿太、そろそろ起きないと、時間なくなるぞ」
「……んあ?あ、おはよう」
「ああ、おはよう。身体は大丈夫か?飯作ったけど、食える?」
「ん、だいじょーぶ……食べたい……」
どうやら大原は、早川が起きる前にベッドを抜け出し、朝食の準備をしてくれていたようだ。出発時間ギリギリまでベッドの中で一緒にダラダラしているものだと思っていたので、少し驚いた。
「俺、まだ準備あるから先に居間に戻ってるな」
「ん……わかったー」
大原はそう言うとさっさと部屋から出て行ってしまう。キスもしない、触れもしない、ものすごくさっぱりとした態度。キスのひとつやふたつくらい降って来るのではないかと期待していたことが少し恥ずかしい。それと同時に、あっさりとした彼の態度に、寂しいのは自分だけなのかと少しもやもやした。
昨夜は途中で行為が終わってすぐに寝てしまったので、詳細な記憶は残っていないが、身体は綺麗になっていて情事後の痕は感じられない。シーツも新しいものに取り替えられている。きっと大原が後始末をしてくれたのだろう。
それでも、やはりシャワーは浴びておきたいので風呂場を借りる。鏡を見るまで気付かなかったが、鎖骨の丁度下あたりに、赤い痕を見つけた。よく見るとひとつだけではない。胸や腹にも赤い痕が散らばっている。脚の付根に見つけた時はさすがに恥ずかしくなった。いつの間にこんな場所に付けられたのだろうか。
目に着くと気になってしまい、鎖骨の下の痕をスッと撫でてみる。痛くもないし、痒くもないし、何も感じない。ただ、自分が彼の所有物であるという証。痕をつけたがるなんて意外だと思ったが、彼の気持ちを独り占めしているみたいで、実は少し嬉しい。
しかし、この痕もあと数日で消えてしまう。彼の所有物だという証が、消えてしまうのだ。
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