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21.最後の夜と大事な借り物4

 帰りの飛行機の時間は、12時頃。本当はもっと遅い時間にしたかったが、石垣空港を出てから羽田空港までも時間がかかるし、羽田空港から家までもまた時間がかかる。あまり遅い時間にならないように計算して、この時間の飛行機にした。高校を卒業したばかりの早川が夜遅くまで出歩くわけにいかない。 「駿太ー、そろそろ出る時間だけど、準備できた?」 「ちょっと待って!忘れ物ないか確認だけ…」  持ってきたリュックを背負って、最後の忘れ物確認。最悪、財布とスマートフォンさえあれば家までは帰れるだろう。  寝泊りしていた大原の部屋を見て、胸がきゅっとなった。この部屋で一緒に寝たり、抱き合ったり恋人らしいことをたくさんした。元々殺風景な部屋だったが、早川の荷物が無くなって、何だか来た時よりがらんとして見える。 「忘れ物、ないみたいだな。行くか」 「うん……って、ナゴ!寝癖ついてるよ!」 「えっ、あ…本当だ」  正面から見えない位置に、ぴょんと跳ねた寝癖を発見する。もう時間もないし、面倒だからと大原は黒いキャップを被った。どこか見覚えがある黒い帽子。確か、最後の夏の大会のとき、こっそり見に来てくれた大原が顔を隠すために被っていたもの。  あの時のことは、よく覚えている。きっとこの先も忘れることはない。 「ずっと思ってたけど、キャップ被ってるの、ちょっと意外かも」  大原は普段から着飾ったりしないし、私服もシンプルなものばかりでお洒落に関心が無さそうだった。だから、お洒落アイテムのような帽子を持っていたのは意外だった。しかも、良く見ると若者に人気のちょっとしたブランドのロゴが入っている。 「ああ、これは貰ったやつだから」 「あー、通りで」 「うん、こういう時便利だから、割と使ってるんだけど」  ずっと前から同じものを使っている、ということは、この帽子は大原にとって大事なものなのだろうか。少しだけ妬ける。  いつか自分もこの帽子のように、彼に大事にしてもらえる何かを贈りたいと思った。

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