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21.最後の夜と大事な借り物6
「最後くらい、笑って見送ろうと思ってたのに、無理だった。やっぱり……寂しいな」
そう言って大原は、無理やり笑って見せる。寂しさをぐっと堪えた下手くそな笑顔だった。あの、早川が好きな自然な笑顔ではない。無理しているのがすぐわかる。
「駿太と一緒にいると、本当に楽しくて幸せだったから……もう、お前が居ないの、耐えられないかも」
ずっと隠していただけで、彼も寂しいのだ。自分だけではない。それが分かると、余計寂しくなる。胸がきゅっと締まって苦しい。頑張って堪えていたのに、堰を切ったように涙が溢れ出してきた。
「っ、おれも、無理だよ……!寂しい…っ、ほんと、に…寂しい…!」
涙が次から次へと溢れて止まらない。無理やり引っ込ませようとして、ゴシゴシと目を擦る。
「目、擦ったら赤くなるよ」
「……もう、遅いじゃん」
「ごめん、俺のせいだな」
「……ううん、違う。ナゴは悪くない」
「そんな泣き顔じゃ、飛行機乗れないな…」
「え、嘘?そんなにやばい……わっ!」
ぽす、と頭の上から何か被せられた。大原が被っていた帽子だとすぐに気付いた。
「こうやって深めに被れば……ほら、目元くらいなら隠せる」
「うん、ありがとう……でも、これ大事なんだよね?いいの?」
「ああ、大事な物だ。だから、次に会うときまで、ちゃんと大事にしてて」
「うん、約束だね」
「ああ、約束だ」
二人を結ぶ未来の約束が、ひとつできた。あの町に帰る、帰らないなんて将来が関わる大きな約束では無くてもいい。借りた物を返す、こんな小さな簡単な約束でも、早川に大きな安心を与えた。次に会うのがいつか分からないわけではない。一緒に決めたらいいのだ。夏休みや春休み、それと連休があればいつでも来れる。
いつの間にか涙も止まった。これ以上ここにいても、名残惜しくなってしまうだけ。じゃあ、と早川が言い掛けた、その時。
「なあ、あとひとつだけいいか?」
意を決したような面持ちで、大原が早川を引き止める。
「時間はかかるかもしれないけど……俺、そっちに帰れるようになるから」
ぎゅっ、と大原の拳に力が入ったのが見えた。
「だから、待ってて欲しい」
一番欲しかった答えが貰えた。
星を見ながら話した時はまだ答えが出なかったのに。この島で一緒に過ごした時間が、大原が前に進むきっかけを与えたのかもしれない。
「うん、待ってる!」
いつか約束が果たされるその時を。
早川は大原が前に進めることを、そしてその時が来ることを、ずっと信じて待っている。
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