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22.無償の愛で咲いた花

* 「……ん、んん?」  目を覚ましたら冷たい床の上だった。  廊下でうつ伏せで寝ていた。そのせいで身体のあちこちがバキバキだ。なんとか帰ってきたものの、ベッドにたどり着く前に限界を迎えて眠ってしまったようだ。何故か財布とスマートフォンがそれぞれ適当な場所に放り出されていた。なんだこれは、と早川は大きな溜息をついた。  昨日のことを思い出してみる。仕事は普通に日勤だった。以前から岸田と神崎と飲みに行く約束をしていたので、それぞれの仕事が終わった夜に合流した。  あの二人とは相変わらず仲良くしているが、社会人になるとさすがに学生の時のように頻繁に会うことは出来ない。久々に会ったので盛り上がってしまって、そのまま優介の店に行った。  今日は昼に大事な予定があるから程々にする、と昨日は散々言っていたのに。  優介の店に行ったのも久しぶりだったので、ついつい楽しくなってしまって、閉店まで遊んでしまった。もちろん、終電はとっくに終わっている時間だったのでタクシーで帰って来て、そして寝落ちして今に至る。あの二人は無事に帰ったのだろうか。  床に放り出されたスマートフォンを見ると、岸田から一件、メッセージが来ていた。 『今日はお疲れ。また飲もうな!相当酔ってたけど、明日寝坊するなよ!』  メッセージの受信時刻は2時過ぎで、現在時刻は6時半。きっと岸田はまだ寝ているので、メッセージは後で返す事にしてスマートフォンを閉じる。  岸田のメッセージにある明日は、今日のことを示している。今日はずっと前から大事な約束があるのだ。昨日の飲み会で散々言いふらしたし、彼らとも関わりの深い人とのことなので、気にしてくれていたのだろうか。大事な約束だから、寝坊なんてしないのに。    とは言え、約束の時間は12時で、まだまだ時間がある。11時に起きれば余裕で間に合うので、もう一眠りすることにして寝室に向かう。  一人暮らしにしては広すぎる1LDKの部屋は、ガランとしていて生活感がない。オープンキッチンのスペースには冷蔵庫とゴミ袋しか無いし、リビングには床に直置きのテレビと、中途半端に開いた段ボールだけ。リビングとスライドドアで仕切られた洋室では、ダブルベッドだけが存在感を放っている。生活に必要最低限のものしか無い。  それもそのはず、早川がこの家に越してきたのはつい3日ほど前。多忙な中、なんとか必要最低限の家電と家具だけ揃えた。  寝室のベッドに倒れるようにダイブした。ダブルベッドなので、大の字に寝ても大丈夫だ。カーテンは、シフト勤務の早川のために遮光カーテンにしたので、朝日は入らない。  まだ新しくてふかふかのベッドに寝転ぶと、すぐさま睡魔が襲ってきた。目蓋が重くて勝手に閉じていく。  スマホのアラームは、ちゃんとセット出来ているだろうか。今日は大事な日だから、寝坊は出来ない。  待ちに待った、約束が果たされる日なのだ。

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