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大原と早川2
*
早川との生活も順調で、仕事も順調で。何もかもがうまくいきすぎてきて、これから何か悪いことが起こるのではないかと不安になるくらい充実した毎日を送っている。
「……よし、在庫確認も発注も終わったし、後は……ナゴ、戸締まりしたか?」
「窓は全部閉めた。あとは出入り口だけ」
「おう、サンキュー。じゃあもう帰るか」
早川と暮らし始めて、初めて迎えた年末。
大原が働く優介の店は、大晦日、三が日と休業日が続く。なので、今日が仕事納め。明日からしばらく休みだ。休み、といっても特にやることはないのだが。
今年の冬は暖冬、と言っても寒いものは寒い。特に夜中の1時を過ぎたこの時間の風は冷たい。優介とふたり、コートをしっかりと着込んで首にマフラーを巻いて店の外へ出る。
外から玄関の鍵を閉めて、いよいよ今年の仕事が終了した。
「うっ、寒い…」
「寒いな、早く帰ろうぜ」
何年も沖縄で暮らしていたせいか、この街の寒さは堪える。寒いのは優介も同じようだ。早く帰ろうと、優介は自分のバイクに跨る。
大原は普段、自転車で店まで通っているが、さすがに今日は寒くて道路が凍ってしまうかもしれない、と家に置いてきたのだ。来る時は日があったのでそこまで寒くなかったが、今は歩いて帰るのが嫌になるくらい寒い。
「優介、乗せてってよ」
「は?別にいいけど…手袋ないと死ぬぞ?」
「そのくらい無くても平気だろ」
まだ良いとも何とも言われてないが、勝手に彼の後ろに跨る。兄貴肌の優介は、こういうお願いを断れないことを大原は知っている。
「わかった、送ってくから、いったん降りろ。ヘルメット出すから」
そう言われて、いったんバイクから降りる。シートの下には普段彼が使わない予備のヘルメットが入っている。いつ、誰を乗せてもいいように、ちゃんと準備されているのだ。
「……あ、そうだ。ナゴ、どうせこれから暇だろ?」
そう問い掛けながら、優介がヘルメットを寄越す。こんな夜中に予定は無いし、明日も予定は無い。要するに彼のいう通り、暇なのだ。
どうせ暇、なんて言われたら自分が詰まらない奴みたいで、何か気に入らない。
「……予定はない」
「どうせ早川くんが居ないと、やること無いだろ」
優介のいう通りだ。早川はこの年末年始、実家に戻ってしまったので、家に帰っても大原ひとりだ。
実家と言っても、早川の実家は近い。元旦の夜には帰ってくるらしいので、それまでの辛抱だ。
仕事と早川が中心である大原の生活からいきなり両方が無くなってしまったら、もうやる事もないし楽しみもない。
「俺も暇だし、ちょっと付き合えよ」
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